徂徠先生答問書 / 卷中
人の才能知惠の程を知らんとて其人をあげつおろしつ終日まふり居たればとて、占歟人相歟、扨は神通は各別の儀、只にては其人の長所は知られ申間敷候。人は活物に候へば、事に懸け候て見候へば、今迄無之才智も出る物にて御座候。兎角用て見不申候得ば聖人とても御存知無之候。依是書經には采々と御座候は、事をさせて見よと申事にて御座候。先長所を知りて後に用可申存候はば、人は用られ申間敷候。用ひてならでは知れぬ物と可被思召候。但用るに就て又次第御座候。此方より指圖を致し候て使ひ候へば、其人必其事にはまり不申候故、十分の才能は出ぬ物にて候。小々の過失をゆるし不申候得ば、たとひ指圖を致不申候共、はまり無之物に候故に、用ざれば知らず候。ゆだねざれば誠に用ゆるにては無之候。是皆常の道理にて、是より外に又妙道は無御座候。古の聖人の御相傳の道如此御座候。毛頭御疑ひ被成間敷候。以上。
新字:人の才能知恵の程を知らんとて其人をあげつおろしつ終日まふり居たればとて、占歟人相歟、扨は神通は各別の儀、只にては其人の長所は知られ申間敷候。人は活物に候へば、事に懸け候て見候へば、今迄無之才智も出る物にて御座候。兎角用て見不申候得ば聖人とても御存知無之候。依是書経には采々と御座候は、事をさせて見よと申事にて御座候。先長所を知りて後に用可申存候はば、人は用られ申間敷候。用ひてならでは知れぬ物と可被思召候。但用るに就て又次第御座候。此方より指図を致し候て使ひ候へば、其人必其事にはまり不申候故、十分の才能は出ぬ物にて候。小々の過失をゆるし不申候得ば、たとひ指図を致不申候共、はまり無之物に候故に、用ざれば知らず候。ゆだねざれば誠に用ゆるにては無之候。是皆常の道理にて、是より外に又妙道は無御座候。古の聖人の御相伝の道如此御座候。毛頭御疑ひ被成間敷候。以上。
書き下し
人の才能知恵の程を知らんとて其人をあげつおろしつ終日まふり居たればとて、占歟人相歟、扨は神通は各別の儀、只にては其人の長所は知られ申間敷候。人は活物に候へば、事に懸け候て見候へば、今迄無之才智も出る物にて御座候。兎角用て見不申候得ば聖人とても御存知無之候。依是書経には采々と御座候は、事をさせて見よと申事にて御座候。先長所を知りて後に用可申存候はば、人は用られ申間敷候。用ひてならでは知れぬ物と可被思召候。但用るに就て又次第御座候。此方より指図を致し候て使ひ候へば、其人必其事にはまり不申候故、十分の才能は出ぬ物にて候。小々の過失をゆるし不申候得ば、たとひ指図を致不申候共、はまり無之物に候故に、用ざれば知らず候。ゆだねざれば誠に用ゆるにては無之候。是皆常の道理にて、是より外に又妙道は無御座候。古の聖人の御相伝の道如此御座候。毛頭御疑ひ被成間敷候。以上。
現代語訳
人の才能や知恵の程度を知ろうとして、その人を上げたり下ろしたりして一日中いじり回していても、占いや人相、あるいは神通力なら別ですが、それだけではその人の長所は分からないでしょう。人は生き物ですから、事に当たらせて見れば、今までなかった才知も出てくるものです。とにかく用いてみなければ、聖人でも分からないのです。だから『書経』に「采々」とあるのは、事をさせてみよということです。まず長所を知ってから後に用いようとお考えなら、人は用いられないでしょう。用いてみなければ分からないものとお考えください。ただし、用いるについてはまた順序があります。こちらから指図をして使えば、その人は必ずその事にはまり込まないので、十分な才能は出ないものです。小さな過失を許さなければ、たとえ指図をしなくても、はまり込むことはないものです。ゆえに、用いなければ分からず、任せなければ本当に用いることにはならないのです。これはみな常の道理であって、これより他に妙道はありません。古の聖人が伝えてきた道はこのとおりです。少しもお疑いなさいませんように。以上。
解説
この章句が説くこと
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