徂徠先生答問書 / 卷中
一愚老が說に從ひ、疵物を御用ひ被成度思召候へ共、兎角人の長所御見え不被成との儀、成程〳〵左樣可有御座候。得と御工夫不被成候故、御目覺兼候と存候。左候はゞ御自身の長所御存知被成候哉。此御段承度存候。是も大形御存知被成間敷候。加樣に申候愚老も自身の長所は存知不申候。但學問の道は幼少より致修練候故、是計は長候と自負も有之候。其外の儀は致し見不申候故存知不申候。足下も指當候御役儀の上の御取捌、公邊の立廻り等の儀は定て御得物と存候。其外侍大將の職分、右の高坂彈正が如くに候哉。內藤修理に似申候哉。山縣馬場が內何れか長所に候哉。此段決て御存知有間舖候。是にて御合點參り候事にて御座候。
新字:一愚老が説に従ひ、疵物を御用ひ被成度思召候へ共、兎角人の長所御見え不被成との儀、成程〳〵左様可有御座候。得と御工夫不被成候故、御目覚兼候と存候。左候はゞ御自身の長所御存知被成候哉。此御段承度存候。是も大形御存知被成間敷候。加様に申候愚老も自身の長所は存知不申候。但学問の道は幼少より致修練候故、是計は長候と自負も有之候。其外の儀は致し見不申候故存知不申候。足下も指当候御役儀の上の御取捌、公辺の立廻り等の儀は定て御得物と存候。其外侍大将の職分、右の高坂弾正が如くに候哉。内藤修理に似申候哉。山県馬場が内何れか長所に候哉。此段決て御存知有間舖候。是にて御合点参り候事にて御座候。
書き下し
一愚老が説に従ひ、疵物を御用ひ被成度思召候へ共、兎角人の長所御見え不被成との儀、成程〳〵左様可有御座候。得と御工夫不被成候故、御目覚兼候と存候。左候はゞ御自身の長所御存知被成候哉。此御段承度存候。是も大形御存知被成間敷候。加様に申候愚老も自身の長所は存知不申候。但学問の道は幼少より致修練候故、是計は長候と自負も有之候。其外の儀は致し見不申候故存知不申候。足下も指当候御役儀の上の御取捌、公辺の立廻り等の儀は定て御得物と存候。其外侍大将の職分、右の高坂弾正が如くに候哉。内藤修理に似申候哉。山県馬場が内何れか長所に候哉。此段決て御存知有間舖候。是にて御合点参り候事にて御座候。
現代語訳
私の説に従って疵物をお用いになりたいと思われるものの、とかく人の長所が見えないとのこと、なるほどそうでありましょう。よくご工夫なさらないので、お目が覚めかねているのだと存じます。それならば、ご自身の長所はご存じですか。この点を伺いたいものです。これもたいていご存じないでしょう。こう申す私も自分の長所は知りません。ただ学問の道は幼少から修練してきたので、これだけは長じているという自負もあります。そのほかのことは、やってみたことがないので分かりません。あなたも、差し当たってのお役目の上の取り捌きや、公儀への立ち回りなどはきっと得意でいらっしゃるでしょう。そのほか侍大将の職分では、あの高坂弾正のようでしょうか。内藤修理に似ているでしょうか。山県・馬場のうち、どれが長所でしょうか。これは決してご存じないでしょう。これでご納得がいくことと存じます。
解説
この章句が説くこと
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『徂徠先生答問書』卷中一疵物の使ひにくき由被仰下候。成程〳〵尤なる御不審と存候。人情世態に歴練不被成候故、其疵の害をなし候は、如何程の儀と申候程位御心に落不申候て、御気遣ひ止不申にて御座候。御学問未熟にて小量なる故と可被思召候。此関打不透に候内は国の治はなり不申事に候。疵物と申候は、たとへばくせ馬のごとくに候。彼がくせを致し申候時の取納の仕様合点不参候内は気遣にて被乗不申候。是も尤には候得共、坐ながらに其取納の仕様合点参る物にて無御座候。馬屋の者ばくらう抔に能くせ馬をのり候者有之候。一々に馬術鍛錬致したるにても無御座候。又何程馬術鍛錬いたし候共、馬も活物に候へばくせの程位たしかに知れ申候に極りたる物にても無御座候。只気遣の心つよく御座候故、とにかくに埓明不申にて候。押こなしのりつけ候へば、左迄の気遣はなき物と申候事合点参る物に候。三度も五度もなげられ候心得にて無御座候ては、くせ馬にはのられ不申候。
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『甲陽軍鑑』品第十二必ず能き大将の下には侍衆先第一は大小共に慇懃を面にする、縦へそゝげたる様にても真なり、芸なき様にても身の能あり、馬を乗り弓を射、兵法をつかひ鉄炮を打、乱舞をも存じ、花を立、仕付方何事もそれ〳〵に恥をかゝず、殊に弓矢の義は心懸け强ければ、祖父·親·兄弟·親類·近付の覚有人に立入り、雑談をこまかに聞き、能く心に治むるに付十五六歳にて一度も陣をいたさずとも、悪き家にて覚の衆よりは心至つて物のすべを能しり、一言申ことも手首尾逢て残べし、
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