徂徠先生答問書 / 卷中
されば人々如此心懸候故、見え兼るもことわりにて候。足下も御先祖樣の時代の事御聞可被成候。今の世より見候へば、其時分に名を申候能人と申候は皆疵物にて候。是別の子細に無御座候。其時分はぬり隱し申候事無御座候故、疵見え申候。疵見え申候得ば、人才は見え申候。今時も世上の惡俗に染不申候人は疵多く御座候間、疵物にならでは人才はなき物と被思召、疵物の内にて御ゑらび可被成候。疵もなく才も長じ候人を御尋候はゞ、最前申候御物ずきの注文と申物にて、疵なき人は鄕原か巧言令色か扨は庸人と可被思召候。以上。
新字:されば人々如此心懸候故、見え兼るもことわりにて候。足下も御先祖様の時代の事御聞可被成候。今の世より見候へば、其時分に名を申候能人と申候は皆疵物にて候。是別の子細に無御座候。其時分はぬり隠し申候事無御座候故、疵見え申候。疵見え申候得ば、人才は見え申候。今時も世上の悪俗に染不申候人は疵多く御座候間、疵物にならでは人才はなき物と被思召、疵物の内にて御ゑらび可被成候。疵もなく才も長じ候人を御尋候はゞ、最前申候御物ずきの注文と申物にて、疵なき人は郷原か巧言令色か扨は庸人と可被思召候。以上。
書き下し
されば人々如此心懸候故、見え兼るもことわりにて候。足下も御先祖様の時代の事御聞可被成候。今の世より見候へば、其時分に名を申候能人と申候は皆疵物にて候。是別の子細に無御座候。其時分はぬり隠し申候事無御座候故、疵見え申候。疵見え申候得ば、人才は見え申候。今時も世上の悪俗に染不申候人は疵多く御座候間、疵物にならでは人才はなき物と被思召、疵物の内にて御ゑらび可被成候。疵もなく才も長じ候人を御尋候はゞ、最前申候御物ずきの注文と申物にて、疵なき人は郷原か巧言令色か扨は庸人と可被思召候。以上。
現代語訳
だから人々がこのように心がけているので、見えかねるのも無理はありません。あなたもご先祖の時代のことをお聞きになってください。今の世から見れば、その頃に名の知られた有能な人というのは、みな疵物(きずもの)です。これは別に訳があるわけではありません。その頃は塗り隠すことがなかったので、疵が見えたのです。疵が見えれば、人材も見えます。今でも世間の悪い風俗に染まっていない人は疵が多いので、疵物でなければ人材はいないものとお考えになって、疵物の中からお選びください。疵もなく才も優れた人をお探しになるなら、それは先ほど申したお物好きの注文というものであって、疵のない人は郷原(善人ぶった偽善者)か、巧言令色(口先と顔色だけ取り繕う者)か、さもなくば凡庸な人とお考えください。以上。
解説
この章句が説くこと
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