徂徠先生答問書 / 卷中
畢竟前書に御答申候通、自分の才智を御用候御病根、翳膜となり候て、ある人の御目に見え不申候にて可有御座候。御書面の趣にて察候へば、人才と被仰候は、定て御望の注文可有之候。其注文に合不申をば人才には不被成候と相見え申候。宋儒抔も手前より注文を出し候病有之候故、通鑑綱目を見候へば、天下古今に一人も朱子の心に合申候人見え不申候。皆々咎人にかき被成候。綱目を御覽候事惡敷候と常々申候は此義にて候。手前より注文を出し人を御さがし候は、手前の御物ずきを御立候にて御座候故、その御注文に合候人は天下古今盡未來際まで無之物に候。子細は人心不同如面候。足下の御面の樣なる人無之候。是慥なる證據に候。左樣に六借く御尋候へば、御望の人無之而已に無御座、下たる人皆阿諛逢迎に罷成候物に候。今世の通病此事にとゞまり候。能く御了簡可被成候。以上。
新字:畢竟前書に御答申候通、自分の才智を御用候御病根、翳膜となり候て、ある人の御目に見え不申候にて可有御座候。御書面の趣にて察候へば、人才と被仰候は、定て御望の注文可有之候。其注文に合不申をば人才には不被成候と相見え申候。宋儒抔も手前より注文を出し候病有之候故、通鑑綱目を見候へば、天下古今に一人も朱子の心に合申候人見え不申候。皆々咎人にかき被成候。綱目を御覧候事悪敷候と常々申候は此義にて候。手前より注文を出し人を御さがし候は、手前の御物ずきを御立候にて御座候故、その御注文に合候人は天下古今尽未来際まで無之物に候。子細は人心不同如面候。足下の御面の様なる人無之候。是慥なる証拠に候。左様に六借く御尋候へば、御望の人無之而已に無御座、下たる人皆阿諛逢迎に罷成候物に候。今世の通病此事にとゞまり候。能く御了簡可被成候。以上。
書き下し
畢竟前書に御答申候通、自分の才智を御用候御病根、翳膜となり候て、ある人の御目に見え不申候にて可有御座候。御書面の趣にて察候へば、人才と被仰候は、定て御望の注文可有之候。其注文に合不申をば人才には不被成候と相見え申候。宋儒抔も手前より注文を出し候病有之候故、通鑑綱目を見候へば、天下古今に一人も朱子の心に合申候人見え不申候。皆々咎人にかき被成候。綱目を御覧候事悪敷候と常々申候は此義にて候。手前より注文を出し人を御さがし候は、手前の御物ずきを御立候にて御座候故、その御注文に合候人は天下古今尽未来際まで無之物に候。子細は人心不同如面候。足下の御面の様なる人無之候。是慥なる証拠に候。左様に六借く御尋候へば、御望の人無之而已に無御座、下たる人皆阿諛逢迎に罷成候物に候。今世の通病此事にとゞまり候。能く御了簡可被成候。以上。
現代語訳
結局、前の手紙でお答えしたとおり、ご自分の才知を用いられるという病の根が目の曇りとなって、いる人がお目に見えないのでしょう。お手紙の趣から察するに、人材とおっしゃるのは、きっとお望みの注文(条件)があるのでしょう。その注文に合わない者は人材とはなさらないと見えます。宋儒なども自分の側から注文を出す病があるので、『通鑑綱目』(朱子が編んだ史書)を見ると、天下古今に一人も朱子の心に合う人は見えません。みな咎人(とがにん)として書いておられます。私が常々『綱目』をご覧になるのはよくないと申しているのは、このことです。自分の側から注文を出して人をお探しになるのは、自分の物好きをお立てになることですから、そのご注文に合う人は、天下古今、未来永劫いないものです。その訳は「人の心の同じからざるは、その面のごとし」(『左伝』)だからです。あなたのお顔と同じ顔の人はいません。これが確かな証拠です。そのように難しくお尋ねになると、お望みの人がいないばかりでなく、下にいる人がみな阿諛追従するようになるものです。今の世の通弊はこの一事に尽きます。よくお考えください。以上。
解説
この章句が説くこと
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