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徂徠先生答問書 / 卷上

郡縣の世は、諸侯を立ず士大夫皆一代切に候。知行所もなく皆切米取にて祿薄く候。下司を多くつけ候て、それにてはたばりを持つ事に候。天下の國郡を治め候太守縣令と申候は、皆代官の樣なる物にて、三年替りに候故、威勢薄く候間、法度の立樣三代と替り嚴密に候。天子の國郡を預り候て、しかも三年替りに候故、急に驗の見え候事を第一に致し候風俗に候。土民より起りて宰相迄も立身致し候事成候事故、士大夫の立身を求め候心盛んに候。是三代と後世との大段の分れにて御座候。日本も古は郡縣にて候へども、今程封建に被成候故、唐宋諸儒の說には取用がたき事共御座候。

新字:郡県の世は、諸侯を立ず士大夫皆一代切に候。知行所もなく皆切米取にて禄薄く候。下司を多くつけ候て、それにてはたばりを持つ事に候。天下の国郡を治め候太守県令と申候は、皆代官の様なる物にて、三年替りに候故、威勢薄く候間、法度の立様三代と替り厳密に候。天子の国郡を預り候て、しかも三年替りに候故、急に験の見え候事を第一に致し候風俗に候。土民より起りて宰相迄も立身致し候事成候事故、士大夫の立身を求め候心盛んに候。是三代と後世との大段の分れにて御座候。日本も古は郡県にて候へども、今程封建に被成候故、唐宋諸儒の説には取用がたき事共御座候。

書き下し

郡県の世は、諸侯を立ず士大夫皆一代切に候。知行所もなく皆切米取にて禄薄く候。下司を多くつけ候て、それにてはたばりを持つ事に候。天下の国郡を治め候太守県令と申候は、皆代官の様なる物にて、三年替りに候故、威勢薄く候間、法度の立様三代と替り厳密に候。天子の国郡を預り候て、しかも三年替りに候故、急に験の見え候事を第一に致し候風俗に候。土民より起りて宰相迄も立身致し候事成候事故、士大夫の立身を求め候心盛んに候。是三代と後世との大段の分れにて御座候。日本も古は郡県にて候へども、今程封建に被成候故、唐宋諸儒の説には取用がたき事共御座候。

現代語訳

郡県の世は、諸侯を立てず、士大夫はみな一代限りです。知行所もなく、みな切米取り(俸禄の米を受ける者)で、禄は薄いものです。下役人を多く付けて、それで威勢を張ります。天下の国郡を治める太守や県令というのは、みな代官のようなもので、三年交替ですから威勢が薄く、そのため法令の立て方が三代とは変わって厳密です。天子の国郡を預かっていて、しかも三年交替なので、急いで成果が見えることを第一にする風俗です。農民から身を起こして宰相にまで出世することもできるので、士大夫の出世を求める心が盛んです。これが三代と後世との大きな分かれ目です。日本も古は郡県でしたが、今は封建になっていますので、唐・宋の諸儒の説には取り用いにくいことがあるのです。

解説

郡県の世は、一代限りの官僚が三年交替で地方を預かる。禄は薄く威勢もないから法を厳密にし、任期中に成果を見せることを第一にし、誰もが出世を求める。徂徠はこれを三代と後世の大きな分かれ目とし、封建となった今の日本には唐宋の説を取り用いにくいと言う。短い任期で成果を急ぐ姿は、四半期ごとの決算や数年ごとの人事異動にも重なる。制度が人の心と行動をどう形づくるかを見抜かなければ、他所の処方をそのまま持ち込んでも効かない。

この章句が説くこと

郡県封建任期成果制度出世

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