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徂徠先生答問書 / 卷上

一唐宋諸儒の經濟の書共御覽被成候由、事實は事實の上が能候間、能御心付と存候。就夫御心得御座候事ども御座候。三代の時分は封建の世にて御座候。秦漢以後は、唐宋明までも皆郡縣の代にて候。封建の世と郡縣の世とは、天下の制法の惣體別にて御座候。封建の世は、天下を諸侯にわりくれ候て、天子の直御治めは僅の事に候。諸侯の臣は、皆世祿にて代々知行所を持候て有之候。尤賢者を擧用る事にて候へ共、大體は人の分限に定り有之候て、士大夫はいつも士大夫に候。諸侯はいつも諸侯に候故、人の心定り落着く世にて候。法度も粗く候て、只上下の恩義にて治まり、廉耻を養ふ事を先といたし候。諸侯も大夫も、皆わが物に致し候て國郡を治め候事にて御座候。

新字:一唐宋諸儒の経済の書共御覧被成候由、事実は事実の上が能候間、能御心付と存候。就夫御心得御座候事ども御座候。三代の時分は封建の世にて御座候。秦漢以後は、唐宋明までも皆郡県の代にて候。封建の世と郡県の世とは、天下の制法の惣体別にて御座候。封建の世は、天下を諸侯にわりくれ候て、天子の直御治めは僅の事に候。諸侯の臣は、皆世禄にて代々知行所を持候て有之候。尤賢者を挙用る事にて候へ共、大体は人の分限に定り有之候て、士大夫はいつも士大夫に候。諸侯はいつも諸侯に候故、人の心定り落着く世にて候。法度も粗く候て、只上下の恩義にて治まり、廉耻を養ふ事を先といたし候。諸侯も大夫も、皆わが物に致し候て国郡を治め候事にて御座候。

書き下し

一唐宋諸儒の経済の書共御覧被成候由、事実は事実の上が能候間、能御心付と存候。就夫御心得御座候事ども御座候。三代の時分は封建の世にて御座候。秦漢以後は、唐宋明までも皆郡県の代にて候。封建の世と郡県の世とは、天下の制法の惣体別にて御座候。封建の世は、天下を諸侯にわりくれ候て、天子の直御治めは僅の事に候。諸侯の臣は、皆世禄にて代々知行所を持候て有之候。尤賢者を挙用る事にて候へ共、大体は人の分限に定り有之候て、士大夫はいつも士大夫に候。諸侯はいつも諸侯に候故、人の心定り落着く世にて候。法度も粗く候て、只上下の恩義にて治まり、廉耻を養ふ事を先といたし候。諸侯も大夫も、皆わが物に致し候て国郡を治め候事にて御座候。

現代語訳

一、唐・宋の諸儒の経世済民の書などをご覧になっているとのこと、事実は事実の上で見るのがよいので、よくお気付きになったと存じます。それについて、お心得いただきたいことがございます。三代(夏・殷・周)の頃は封建の世でした。秦・漢以後は、唐・宋・明までもみな郡県の世です。封建の世と郡県の世とは、天下の制度の全体が別物です。封建の世は、天下を諸侯に割り与えて、天子が直接治めるのはわずかです。諸侯の臣はみな世襲の禄で、代々知行所を持っています。もっとも賢者を取り立てることもありますが、大体は人の身分に定めがあって、士大夫はいつまでも士大夫、諸侯はいつまでも諸侯なので、人の心が定まって落ち着く世です。法令も粗く、ただ上下の恩義によって治まり、廉恥の心を養うことを第一とします。諸侯も大夫も、みな自分のものとして国郡を治めるのです。

解説

中国の経世済民の書を読む相手に、徂徠はまず制度の違いを押さえよと言う。三代は封建、秦漢以後は郡県で、天下の仕組みが根本から異なる。封建の世は身分と所領が世襲で人心が落ち着き、法は粗くとも上下の恩義と廉恥で治まる。諸侯も大夫も国を自分のものとして治める。徂徠は江戸の幕藩体制を封建と見ており、ここに日本の統治を考える軸を置いた。他社の手法を学ぶときも、まず相手の組織の前提が自分たちとどう違うかを確かめることが出発点になる。

この章句が説くこと

封建郡県制度恩義廉恥経世

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