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徂徠先生答問書 / 卷上

一此間歷史を御覽被成候由、一段の思召と存候。通鑑綱目を御覽被成候由、同じ事にて資治通鑑よく御座候。資治通鑑はかきつゞけにて候故、渺々といたし候て御覽被成がたく可有御座候。其時は目錄を御覽可被成候。通鑑綱目の、綱は目錄にて候、目は本文にて候。されば資治通鑑と別に替候事も無御座候へども、綱の書樣目錄と違候て、一字之褒貶と申ことを立候て書申候故、被成御覽候内早く理窟たち候て、御學問の風朱子流の理窟に罷成可申候。此段氣の毒に存候事に候。

新字:一此間歴史を御覧被成候由、一段の思召と存候。通鑑綱目を御覧被成候由、同じ事にて資治通鑑よく御座候。資治通鑑はかきつゞけにて候故、渺々といたし候て御覧被成がたく可有御座候。其時は目録を御覧可被成候。通鑑綱目の、綱は目録にて候、目は本文にて候。されば資治通鑑と別に替候事も無御座候へども、綱の書様目録と違候て、一字之褒貶と申ことを立候て書申候故、被成御覧候内早く理窟たち候て、御学問の風朱子流の理窟に罷成可申候。此段気の毒に存候事に候。

書き下し

一此間歴史を御覧被成候由、一段の思召と存候。通鑑綱目を御覧被成候由、同じ事にて資治通鑑よく御座候。資治通鑑はかきつゞけにて候故、渺々といたし候て御覧被成がたく可有御座候。其時は目録を御覧可被成候。通鑑綱目の、綱は目録にて候、目は本文にて候。されば資治通鑑と別に替候事も無御座候へども、綱の書様目録と違候て、一字之褒貶と申ことを立候て書申候故、被成御覧候内早く理窟たち候て、御学問の風朱子流の理窟に罷成可申候。此段気の毒に存候事に候。

現代語訳

一、このごろ歴史書をご覧になっているとのこと、結構なお考えと存じます。『通鑑綱目』をご覧になっているとのことですが、同じことなら『資治通鑑』がよろしゅうございます。『資治通鑑』は書き続けになっているので、果てしなく広がってご覧になりにくいでしょう。そのときは目録をご覧になればよいのです。『通鑑綱目』の「綱」は目録で、「目」は本文です。ですから『資治通鑑』と別に変わることもないのですが、綱の書き方が目録とは違って、一字に褒め貶しを込めるということを立てて書いているので、ご覧になっているうちに早く理屈が立ってしまい、ご学問の風が朱子流の理屈になってしまうでしょう。この点が気がかりに存じます。

解説

歴史を読み始めた相手に、徂徠は朱子の『通鑑綱目』ではなく司馬光の『資治通鑑』を勧める。中身はほぼ同じでも、綱目は一字ごとに褒貶を込める春秋の筆法で書かれているため、読むうちに善悪を裁く理屈が先に立ってしまうという。事実を知るための歴史が、評価の型を覚える訓練にすり替わることを恐れたのである。ビジネス書や事例研究でも、著者の結論や評価ばかりを覚えると、事実そのものから考える力が育たない。まず事実の記録に当たりたい。

この章句が説くこと

歴史資治通鑑朱子学褒貶読書学問

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