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春秋左氏伝 / 哀公六年 孺子の牛

冬。十月。丁卯。立之。將盟。鮑子醉而往。其臣差車鮑點。曰。此誰之命也。陳子曰。受命于鮑子。遂誣鮑子曰。子之命也。鮑子曰。女忘君之為孺子牛。而折其齒乎。而背之也。悼公稽首曰。吾子奉義而行者也。若我可。不必亡一大夫。若我不可。不必亡一公子。義則進。否則退。敢不唯子是從。廢興無以亂。則所願也。鮑子曰。誰非君之子。乃受盟。使胡姬以安孺子如賴。去鬻姒。殺王甲。拘江說。囚王豹于句竇之丘。公使朱毛告於陳子曰。微子則不及此。然君異於器。不可以二。器二不匱。君二多難。敢布諸大夫。僖子不對而泣。曰。君舉不信群臣乎。以齊國之困。困又有憂。少君不可以訪。是以求長君。庶亦能容群臣乎。不然。夫孺子何罪。毛復命。公悔之。毛曰。君大訪於陳子。而圖其小。可也。使毛遷孺子於駘。不至。殺諸野幕之下。葬諸殳冒淳。

新字:冬。十月。丁卯。立之。将盟。鮑子酔而往。其臣差車鮑点。曰。此誰之命也。陳子曰。受命于鮑子。遂誣鮑子曰。子之命也。鮑子曰。女忘君之為孺子牛。而折其歯乎。而背之也。悼公稽首曰。吾子奉義而行者也。若我可。不必亡一大夫。若我不可。不必亡一公子。義則進。否則退。敢不唯子是従。廃興無以乱。則所願也。鮑子曰。誰非君之子。乃受盟。使胡姫以安孺子如頼。去鬻姒。殺王甲。拘江説。囚王豹于句竇之丘。公使朱毛告於陳子曰。微子則不及此。然君異於器。不可以二。器二不匱。君二多難。敢布諸大夫。僖子不対而泣。曰。君舉不信群臣乎。以斉国之困。困又有憂。少君不可以訪。是以求長君。庶亦能容群臣乎。不然。夫孺子何罪。毛復命。公悔之。毛曰。君大訪於陳子。而図其小。可也。使毛遷孺子於駘。不至。殺諸野幕之下。葬諸殳冒淳。

書き下し

冬、十月、丁卯、之を立つ。將に盟はんとす。鮑子醉ひて往く。其の臣差車の鮑點曰く、「此れ誰の命ぞ」と。陳子曰く、「命を鮑子に受く」と。遂に鮑子を誣ひて曰く、「子の命なり」と。鮑子曰く、「女(なんぢ)、君の孺子の牛と為りて其の齒を折りしを忘れたるか。而るに之に背くか」と。悼公稽首して曰く、「吾子は義を奉じて行ふ者なり。若し我可ならば、必ずしも一大夫を亡はず。若し我可ならずんば、必ずしも一公子を亡はず。義なれば則ち進み、否なれば則ち退かん。敢へて唯だ子に是れ從はざらんや。廢興以て亂るること無くんば、則ち願ふ所なり」と。鮑子曰く、「誰か君の子に非ざらん」と。乃ち盟を受く。胡姬をして安孺子を以て賴に如かしむ。鬻姒を去り、王甲を殺し、江說を拘へ、王豹を句竇の丘に囚ふ。公、朱毛をして陳子に告げしめて曰く、「子微かりせば則ち此に及ばず。然れども君は器に異なり、以て二にすべからず。器は二なれば匱しからず、君は二なれば難多し。敢へて諸を大夫に布く」と。僖子對へずして泣きて曰く、「君舉げて群臣を信ぜざるか。齊國の困を以て、困又憂有り。少君は以て訪ふべからず。是を以て長君を求む。庶(こひねが)はくは亦た能く群臣を容れんか。然らずんば、夫の孺子何の罪かあらん」と。毛復命す。公之を悔ゆ。毛曰く、「君、大は陳子に訪ひて、其の小を圖らば、可なり」と。毛をして孺子を駘に遷さしむ。至らずして、諸を野幕の下に殺し、諸を殳冒淳に葬る。

現代語訳

冬十月丁卯の日、陽生を君に立てた(悼公)。大夫たちが盟約を結ぼうとしたとき、鮑子(鮑牧)は酔ってやって来た。その家臣で車の係の鮑点が言った。「これは誰の命令ですか」。陳子(陳乞)は「鮑子から命を受けたのだ」と答えた。そして鮑子に濡れ衣を着せて「あなたの命令です」と言った。鮑子は言った。「おまえは先君(景公)が幼い荼のために牛になって遊んでやり、(綱をくわえたまま転んで)歯を折られたことを忘れたのか。それなのに先君の意に背くのか」。悼公は額を地につけて拝礼して言った。「あなたは義を奉じて行動される方です。もし私が君にふさわしいなら、大夫を一人も失わずにすむでしょう。もし私がふさわしくないなら、公子を一人も失わずにすむでしょう。義にかなうなら進み、かなわないなら退きます。あなたのお考えに従わないことがありましょうか。ただ、君を廃したり立てたりすることで国が乱れないこと、それが私の願いです」。鮑子は言った。「どなたも先君の御子ではないか」。そこで盟約に加わった。胡姫(こき、景公の妾)に安孺子(荼)を連れて頼へ行かせた。鬻姒(荼の母)を追放し、王甲を殺し、江説を捕らえ、王豹を句竇(こうとう)の丘に幽閉した。悼公は朱毛を遣わして陳子に告げさせた。「あなたがいなければ、私はここまで来られなかった。しかし、君というものは器とは違い、二つあってはならない。器は二つあれば足りなくなることはないが、君が二人いれば難事が多くなる。謹んで大夫たちに申し上げる」。僖子(陳乞)は答えずに泣いて言った。「君はすべての臣下を信じておられないのですか。斉国が苦境にあるうえに、その苦境の中にさらに憂いがあります。幼君には相談することもできません。だからこそ年長の君を求めたのです。どうか臣下たちを受け入れていただきたいものです。そうでなければ、あの子にいったい何の罪がありましょう」。朱毛は復命した。悼公は(陳乞に言わせたことを)悔やんだ。朱毛は言った。「君は大事は陳子に相談し、小事はご自身で図られればよいのです」。悼公は朱毛に孺子を駘(たい)へ移させた。孺子は駘に着く前に、野営の幕舎の下で殺され、殳冒淳(しゅぼうじゅん)に葬られた。

解説

陳乞が擁立した陽生(悼公)の即位の場面である。盟約の場で陳乞は、酔っていた鮑牧の命令だと偽って既成事実を作る。鮑牧は、景公が幼い荼のために牛になって遊び、綱をくわえて歯を折った話を持ち出して抵抗した。子を溺愛する親の姿を示す「孺子の牛」はここから出た語である。悼公の返答は巧みで、ふさわしくなければ退くと言いつつ、乱さないことを願うと釘を刺した。鮑牧は「誰か君の子に非ざらん」と折れる。後半は廃された荼の処遇である。悼公は「君は器に異なり、二にすべからず」と陳乞に処分を促すが、陳乞は泣いて答えず、責めを負うのを避ける。結局、朱毛の「大は陳子に訪ひて、其の小を図れ」という言葉のもと、悼公自身の命で幼君は殺された。誰が汚れ役を引き受けるかをめぐる駆け引きが、権力移行の実相を示している。

この章句が説くこと

権力擁立責任転嫁名分後継者

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