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春秋左氏伝 / 昭公二十六年 衆は懼れしむべし

殪。改駕人以為鬷戾也。而助之。子車曰。齊人也。將擊子車。子車射之。殪。其御曰。又之。子車曰。眾可懼也。而不可怒也。子囊帶從野洩。叱之。洩曰。軍無私怒。報乃私也。將亢子。又叱之。亦叱之。冉豎射陳武子。中手。失弓而罵。以告平子曰。有君子白皙。鬒鬚眉。甚口。平子曰。必子彊也。無乃亢諸。對曰。謂之君子。何敢亢之。林雍羞為顏鳴右。下。苑何忌取其耳。顏鳴去之。苑子之御曰。視下顧。苑子刜林雍。斷其足。鑋而乘於他車以歸。顏鳴三入齊師。呼曰。林雍乘。

新字:殪。改駕人以為鬷戻也。而助之。子車曰。斉人也。将撃子車。子車射之。殪。其御曰。又之。子車曰。衆可懼也。而不可怒也。子嚢帯従野洩。叱之。洩曰。軍無私怒。報乃私也。将亢子。又叱之。亦叱之。冉豎射陳武子。中手。失弓而罵。以告平子曰。有君子白皙。鬒鬚眉。甚口。平子曰。必子彊也。無乃亢諸。対曰。謂之君子。何敢亢之。林雍羞為顔鳴右。下。苑何忌取其耳。顔鳴去之。苑子之御曰。視下顧。苑子刜林雍。断其足。鑋而乗於他車以帰。顔鳴三入斉師。呼曰。林雍乗。

書き下し

殪(たふ)る。駕を改む。人以って鬷戾と為して、之を助く。子車曰く、「齊人なり」と。將に子車を擊たんとす。子車之を射て、殪す。其の御曰く、「又之をせよ」と。子車曰く、「眾は懼れしむ可きなり、怒らしむ可からざるなり」と。子囊帶、野洩に從ひて、之を叱す。洩曰く、「軍に私怒無し。報ゆるは乃ち私なり。將に子に亢(あた)らんとす」と。又之を叱す。亦之を叱す。冉豎(ぜんじゅ)陳武子を射て、手に中つ。弓を失ひて罵る。以って平子に告げて曰く、「君子有り、白皙にして鬒(しん)なる鬚眉、甚口なり」と。平子曰く、「必ず子彊(しきょう)ならん。乃ち諸に亢ること無からんや」と。對へて曰く、「之を君子と謂ふ、何ぞ敢へて之に亢らん」と。林雍、顏鳴の右為るを羞ぢて、下る。苑何忌其の耳を取る。顏鳴之を去る。苑子の御曰く、「視ること下に顧みよ」と。苑子林雍を刜(ふつ)して、其の足を斷つ。鑋(けん)して他の車に乘りて以って歸る。顏鳴三たび齊の師に入り、呼びて曰く、「林雍乘れ」と。

現代語訳

馬は倒れて死んだ。子淵捷は馬を付け替えた。魯の兵は子淵捷を鬷戾(叔孫氏の司馬)だと思い込んで加勢した。子車(子淵捷)が「わしは斉の者だ」と言うと、魯の兵は子車を撃とうとした。子車はその兵を射殺した。子車の御者が「もう一人射ましょう」と言うと、子車は言った。「敵の兵は恐れさせるのはよいが、怒らせてはならない」。魯の子囊帯は野洩(洩声子)を追いかけて罵った。洩声子は言った。「戦場に私的な怒りはない。罵り返すのは私事だ。私はそなたと本気で渡り合うぞ」。子囊帯はまた罵り、洩声子も罵り返した。魯の冉豎(ぜんじゅ)は斉の陳武子(陳開)を射て、その手に当てた。陳武子は弓を落として罵った。冉豎は平子(季平子)に報告して言った。「色白で、濃いひげと眉をした、口の悪い君子がいました」。平子は「きっと子彊(陳武子)だ。そなたは彼と渡り合わなかったのか」と言った。冉豎は答えた。「君子とお呼びした相手に、どうして手向かえましょう」。林雍は顔鳴の車の右に乗ることを恥じて、車から降りて戦った。斉の苑何忌は林雍の耳を取った(討ち取った敵の耳を功の証として取る)。顔鳴は林雍を置いて去った。苑子(苑何忌)の御者が「足もとを見なさい」と言った。苑子は林雍を斬りつけて、その足を断ち切った。林雍は片足で跳んで別の車に乗り、帰っていった。顔鳴は三度も斉の陣中に突入し、「林雍、乗れ」と叫んだ。

解説

炊鼻の戦いの続きで、左伝は大きな戦局よりも、戦場の個々の人物の言動を連ねて描く。敵味方を取り違えた魯兵を射た子車は、御者にもっと射よと勧められて「眾は懼れしむ可きなり、怒らしむ可からざるなり」と答えた。恐怖は相手の戦意をくじくが、怒りは相手を一つにして奮い立たせる。前の句で子家子が説いた「眾怒は蓄ふ可からず」と響き合う言葉である。洩声子の「軍に私怒無し」も、罵られて罵り返すのは戦の目的から外れた私情だという自戒だが、結局彼も罵り返してしまうところに人間味がある。冉豎が敵を「君子」と形容したために手向かえなかったと言うのは、礼の意識が戦場にも残っていたことを示す。力で相手を圧倒するときにも、相手の怒りに火をつけるかどうかは別の判断になる。競争相手との向き合い方として考えさせる場面である。

この章句が説くこと

恐怖と怒り私怒自制礼戦場の倫理

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