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春秋左氏伝 / 昭公十一年 幣重くして言甘し

十一年春。王二月。叔弓如宋。葬平公也。景王問於萇弘曰。今茲諸侯。何實吉。何實凶。對曰。蔡凶。此蔡侯般弒其君之歲也。歲在豕韋。弗過此矣。楚將有之然壅也。歲及大梁。蔡復楚凶。天之道也。楚子在申。召蔡靈侯。靈侯將往。蔡大夫曰。王貪而無信。唯蔡於感。今幣重而言甘。誘我也。不如無往。蔡侯不可。五月。丙申。楚子伏甲而饗蔡侯於申。醉而執之。

新字:十一年春。王二月。叔弓如宋。葬平公也。景王問於萇弘曰。今茲諸侯。何実吉。何実凶。対曰。蔡凶。此蔡侯般弒其君之歳也。歳在豕韋。弗過此矣。楚将有之然壅也。歳及大梁。蔡復楚凶。天之道也。楚子在申。召蔡霊侯。霊侯将往。蔡大夫曰。王貪而無信。唯蔡於感。今幣重而言甘。誘我也。不如無往。蔡侯不可。五月。丙申。楚子伏甲而饗蔡侯於申。酔而執之。

書き下し

十一年、春、王の二月、叔弓宋に如く。平公を葬るなり。景王萇弘に問ひて曰く、「今茲諸侯、何か實に吉にして、何か實に凶なる」と。對へて曰く、「蔡凶なり。此れ蔡侯般其の君を弒するの歲なり。歲豕韋に在り。此を過ぎず。楚將に之を有たんとす。然れども壅むるなり。歲大梁に及びて、蔡復し楚凶ならん。天の道なり」と。楚子申に在り。蔡の靈侯を召す。靈侯將に往かんとす。蔡の大夫曰く、「王は貪にして信無し。唯だ蔡に於いて感む。今幣重くして言甘し。我を誘ふなり。往く無きに如かず」と。蔡侯可かず。五月、丙申、楚子甲を伏せて蔡侯に申に饗す。醉はしめて之を執ふ。

現代語訳

十一年春、王の二月、叔弓(魯の大夫)が宋に行った。宋の平公を葬るためである。周の景王が萇弘(ちょうこう、周の大夫)に尋ねた。「今年、諸侯のうち、どこが吉で、どこが凶か」。萇弘は答えた。「蔡が凶です。今年は、蔡侯般(霊侯)がその君(父の景侯)を弑した年と同じく、歳星(木星)が豕韋の位置にあります。蔡侯はこの年を越えないでしょう。楚が蔡を領有するでしょう。しかしそれは楚の悪を積み重ねさせるだけです。歳星が大梁に至れば、蔡は復興し、楚には凶事があるでしょう。それが天の道です」。楚子(霊王)は申にいて、蔡の霊侯を呼び寄せた。霊侯は行こうとした。蔡の大夫が言った。「王は貪欲で信義がありません。そして蔡をこそ恨んでいます。いま贈り物は手厚く、言葉は甘い。われわれを誘い出そうとしているのです。行かないほうがよいでしょう」。蔡侯は聞き入れなかった。五月丙申の日、楚子は兵を伏せておいて申で蔡侯をもてなし、酔わせて捕らえた。

解説

蔡の霊侯は十三年前、父の景侯を殺して即位した君主である。周の萇弘は、その年と同じく歳星が豕韋にある今年、蔡は凶で楚がこれを取るが、歳星が大梁に至れば蔡は復興し楚が凶になると予言する。実際に蔡はこの年に滅ぼされ、二年後に復国し、楚の霊王もその年に死ぬので、これも予言の記事として読める。本筋は楚の霊王の謀略である。申に呼び出された霊侯に、蔡の大夫は「幣重くして言甘し。我を誘ふなり」と警告した。贈り物が手厚く言葉が甘いのは誘いの罠だ、という見立てである。霊侯は聞かずに出かけ、宴で酔わされて捕らえられた。三年前の陳と同じく、霊王は相手の内紛や弱みにつけ込んで国を奪っていく。好条件の申し出ほど、相手の動機とこれまでの関係を確かめる必要がある。警告を受けながら出向いた霊侯の判断は、今も繰り返される失敗の型である。

この章句が説くこと

謀略警戒信義予言甘言

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