春秋左氏伝 / 昭公七年 伯有の亡霊
鄭人相驚以伯有。曰伯有至矣。則皆走。不知所往。鑄刑書之歲二月。或夢伯有介而行。曰壬子。余將殺帶也。明年壬寅。余又將殺段也。及壬子。駟帶卒。國人益懼。齊燕平之月。壬寅。公孫段卒。國人愈懼。其明月。子產立公孫洩及良止以撫之。乃止。子大叔問其故。子產曰。鬼有所歸。乃不為厲。吾為之歸也。大叔曰。公孫洩何為。子產曰。說也。為身無義而圖說。從政有所反之以取媚也。不媚不信。不信。民不從也。及子產適晉。趙景子問焉。曰。伯有猶能為鬼乎。子產曰。能。人生始化曰魄。既生魄。陽曰魂。用物精多。則魂魄強。是以有精爽。至於神明。匹夫匹婦強死。其魂魄猶能馮依於人。以為淫厲。況良霄。我先君穆公之冑。子良之孫。子耳之子。敝邑之卿。從政三世矣。鄭雖無腆。抑諺曰。蕞爾國。而三世執其政柄。其用物也弘矣。其取精也多矣。其族又大。所馮厚矣。而強死。能為鬼。不亦宜乎。
新字:鄭人相驚以伯有。曰伯有至矣。則皆走。不知所往。鋳刑書之歳二月。或夢伯有介而行。曰壬子。余将殺帯也。明年壬寅。余又将殺段也。及壬子。駟帯卒。国人益懼。斉燕平之月。壬寅。公孫段卒。国人愈懼。其明月。子産立公孫洩及良止以撫之。乃止。子大叔問其故。子産曰。鬼有所帰。乃不為厲。吾為之帰也。大叔曰。公孫洩何為。子産曰。説也。為身無義而図説。従政有所反之以取媚也。不媚不信。不信。民不従也。及子産適晋。趙景子問焉。曰。伯有猶能為鬼乎。子産曰。能。人生始化曰魄。既生魄。陽曰魂。用物精多。則魂魄強。是以有精爽。至於神明。匹夫匹婦強死。其魂魄猶能馮依於人。以為淫厲。況良霄。我先君穆公之冑。子良之孫。子耳之子。敝邑之卿。従政三世矣。鄭雖無腆。抑諺曰。蕞爾国。而三世執其政柄。其用物也弘矣。其取精也多矣。其族又大。所馮厚矣。而強死。能為鬼。不亦宜乎。
書き下し
鄭人伯有を以って相驚かす。曰く、「伯有至れり」と。則ち皆走り、往く所を知らず。刑書を鑄るの歲の二月、或ひと伯有の介して行くを夢む。曰く、「壬子、余將に帶を殺さんとす。明年壬寅、余又將に段を殺さんとす」と。壬子に及びて、駟帶卒す。國人益々懼る。齊・燕平ぐの月、壬寅、公孫段卒す。國人愈々懼る。其の明月、子產公孫洩及び良止を立てて以って之を撫す。乃ち止む。子大叔其の故を問ふ。子產曰く、「鬼は歸する所有れば、乃ち厲を為さず。吾之が為に歸せしむるなり」と。大叔曰く、「公孫洩は何為れぞ」と。子產曰く、「說ばしむるなり。身の義無きが為にして說ばしむるを圖る。政に從ふには之に反して以って媚を取る所有るなり。媚びざれば信ぜられず、信ぜられざれば、民從はざるなり」と。子產晉に適くに及び、趙景子焉に問ひて曰く、「伯有猶ほ能く鬼と為るか」と。子產曰く、「能くす。人生まれて始めて化するを魄と曰ふ。既に魄を生じ、陽なるを魂と曰ふ。物を用ゐること精多ければ、則ち魂魄強し。是を以って精爽有りて、神明に至る。匹夫匹婦も強死すれば、其の魂魄猶ほ能く人に馮依して、以って淫厲を為す。況んや良霄は、我が先君穆公の冑、子良の孫、子耳の子、敝邑の卿にして、政に從ふこと三世なり。鄭は腆きこと無しと雖も、抑々諺に曰ふ、『蕞爾たる國』と。而るに三世其の政柄を執る。其の物を用ゐるや弘し。其の精を取るや多し。其の族又大にして、馮る所厚し。而して強死す。能く鬼と為るは、亦た宜ならずや」と。
現代語訳
鄭の人々は伯有(はくゆう、良霄。かつて内紛で殺された鄭の執政)の名を出して互いに驚かし合った。「伯有が来たぞ」と言えば、皆が逃げ出し、どこへ行けばよいかも分からなかった。刑書を鋳造した年(昭公六年)の二月、ある人が夢を見た。伯有が甲冑をつけて歩きながら言った。「壬子の日に、私は帯(駟帯)を殺す。来年の壬寅の日には、段(公孫段)を殺す」。壬子の日になると、駟帯が死んだ。国人はますます恐れた。斉と燕が和睦した月の壬寅の日、公孫段が死んだ。国人はいよいよ恐れた。その翌月、子産は公孫洩(子孔の子)と良止(伯有の子)を立てて家を継がせ、霊を慰めた。すると騒ぎは止んだ。子大叔(游吉)がその理由を尋ねた。子産は言った。「鬼(死者の霊)は帰る所があれば、祟りをなさない。私は伯有のために帰る所を作ってやったのだ」。大叔は言った。「では公孫洩を立てたのはなぜですか」。子産は言った。「人々を納得させるためだ。伯有だけを立てれば、道義のない者のために計らったことになる。だから(同じく殺された子孔の家も立てて)人々が納得するよう図ったのだ。政治を行う者は、ときに筋を曲げてでも人々の意に沿うことがある。人々の意に沿わなければ信用されず、信用されなければ、民は従わない」。のちに子産が晋に行くと、趙景子(趙成、晋の卿)が尋ねた。「伯有はそれでも鬼になれるのですか」。子産は言った。「なれます。人が生まれて最初に形をなすものを魄といい、魄ができたのち、その陽の働きを魂といいます。用いる物が精妙で豊かであれば、魂魄は強くなります。それゆえ精気が盛んになり、神明の域にまで至るのです。ただの男女でも、非業の死を遂げれば、その魂魄はなお人に取り憑いて、ひどい祟りをなすことができます。まして良霄は、わが先君穆公の後裔であり、子良の孫、子耳の子で、わが国の卿として三代にわたって政治に携わってきました。鄭は豊かな国ではなく、諺に言う『ちっぽけな国』ではありますが、それでも三代にわたって政権を握ってきたのです。用いてきた物は広く、取り込んだ精気は多い。一族もまた大きく、よりどころとするものが厚い。そのうえで非業の死を遂げたのですから、鬼になれるのも当然ではありませんか」。
解説
この章句が説くこと
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