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春秋左氏伝 / 襄公三十一年 季子は節を守る者

鄭子皮使印段如楚。以適晉告。禮也。莒犁比公生去疾。及展輿。既立展輿。又廢之。犁比公虐。國人患之。十一月。展輿因國人以攻莒子。弒之。乃立。去疾奔齊。齊出也。展輿吳出也。書曰。莒人弒其君買朱鉏。言罪之在也。吳子使屈狐庸聘于晉。通路也。趙文子問焉。曰。延州來季子。其果立乎。巢隕諸樊。閽戕戴吳。天似啟之。何如。對曰。不立。是二王之命也。非啟季子也。若天所啟。其在今嗣君乎。甚德而度。德不失民。度不失事。民親而事有序。其天所啟也。有吳國者。必此君之子孫實終之。季子守節者也。雖有國不立。

新字:鄭子皮使印段如楚。以適晋告。礼也。莒犁比公生去疾。及展輿。既立展輿。又廃之。犁比公虐。国人患之。十一月。展輿因国人以攻莒子。弒之。乃立。去疾奔斉。斉出也。展輿呉出也。書曰。莒人弒其君買朱鉏。言罪之在也。呉子使屈狐庸聘于晋。通路也。趙文子問焉。曰。延州来季子。其果立乎。巣隕諸樊。閽戕戴呉。天似啓之。何如。対曰。不立。是二王之命也。非啓季子也。若天所啓。其在今嗣君乎。甚徳而度。徳不失民。度不失事。民親而事有序。其天所啓也。有呉国者。必此君之子孫実終之。季子守節者也。雖有国不立。

書き下し

鄭の子皮印段をして楚に如かしめ、晉に適くを以て告ぐ。禮なり。莒の犁比公、去疾と展輿とを生む。既に展輿を立て、又之を廢す。犁比公虐なり、國人之を患ふ。十一月、展輿國人に因りて以て莒子を攻め、之を弒して乃ち立つ。去疾齊に奔る。齊の出なればなり。展輿は吳の出なり。書して「莒人其の君買朱鉏を弒す」と曰ふは、罪の在るを言ふなり。吳子屈狐庸をして晉に聘せしむ。路を通ずるなり。趙文子焉に問ひて曰く、「延州來の季子、其れ果たして立たんか。巢は諸樊を隕し、閽は戴吳を戕す。天之を啟くに似たり。何如」と。對へて曰く、「立たず。是れ二王の命なり、季子を啟くに非ざるなり。若し天の啟く所ならば、其れ今の嗣君に在らんか。甚だ德ありて度あり。德あれば民を失はず、度あれば事を失はず。民親しみて事に序有り。其れ天の啟く所なり。吳國を有つ者は、必ず此の君の子孫實に之を終へん。季子は節を守る者なり。國を有つと雖も立たず」と。

現代語訳

鄭の子皮は印段を楚に遣わして、鄭伯が晋へ行ったことを報告させた。礼にかなったことである。莒の犁比公は去疾と展輿をもうけた。いったん展輿を太子に立てたが、のちに廃した。犁比公は暴虐で、国人はこれを苦にしていた。十一月、展輿は国人の力を借りて莒子(犁比公)を攻めて弑殺し、自ら君位に就いた。去疾は斉に亡命した。母が斉の出身だったからである。展輿の母は呉の出身であった。『春秋』が「莒人がその君買朱鉏を弑した」と記したのは、弑した者の名を書かず国人の仕業とすることで、罪が殺された君主の側にあることを言ったのである。呉子(夷末)は屈狐庸を晋に聘問させた。晋との交通路を開くためである。趙文子(趙武)は屈狐庸に尋ねた。「延州来の季子(季札)は、いずれ本当に君位に就くのだろうか。巣の攻撃では諸樊が戦死し、門番が戴呉(余祭)を殺した。天が季子のために道を開いているように見える。どうか」。屈狐庸は答えた。「季子は立ちません。それは二人の王それぞれの天命であって、季子のために道を開いたのではありません。もし天が道を開いているとすれば、それは今の君主のためでしょう。たいへん徳があり、節度があります。徳があれば民の心を失わず、節度があれば事業を誤りません。民が親しみ、事が秩序立っております。これこそ天が道を開いているのです。呉の国を保つのは、きっとこの君の子孫が最後まで担うでしょう。季子は節を守る人です。国を手にすることができても、君位には就きません」。

解説

鄭の報告の礼、莒の君主殺し、呉の後継問題の三つが並ぶ。莒の犁比公は暴虐で、廃された子の展輿が国人の力を借りて父を殺した。『春秋』が弑殺者の名でなく「莒人」と記したのは、殺された君主に罪があったことを示す書法である。読みどころは呉の使者屈狐庸と晋の趙文子の問答である。呉では寿夢の子らが兄から弟へ位を伝え、最後に賢者として名高い末子の季札に継がせようとしていた。諸樊と余祭が相次いで非業の死を遂げたのを見て、趙文子は天が季札のために道を開いているのかと問う。屈狐庸はそれを否定し、天が開くとすれば徳と節度を備えた今の君主だと答え、季札は「節を守る者」だから国を得ても立たないと言い切った。事実、季札は最後まで位を辞退した。周囲が期待する地位を信条によって辞退する人物と、その人物を正確に理解している同国人の姿は、地位と人の関係を考えさせる。

この章句が説くこと

節義後継者書法徳節度

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