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春秋左氏伝 / 襄公三十年 無欲は実に難し

誰敢犯子。子善相之。國無小。小能事大。國乃寬。子產為政。有事伯石。賂與之邑。子大叔曰。國皆其國也。奚獨賂焉。子產曰。無欲實難。皆得其欲。以從其事。而要其成。非我有成。其在人乎。何愛於邑。邑將焉往。子大叔曰。若四國何。子產曰。非相違也。而相從也。四國何尤焉。鄭書有之曰。安定國家。必大焉先。姑先安大。以待其所歸。既伯石懼而歸邑。卒與之。伯有既死。使大史命伯石為卿。辭。大史退。則請命焉。復命之。又辭。如是三。乃受策入拜。

新字:誰敢犯子。子善相之。国無小。小能事大。国乃寛。子産為政。有事伯石。賂与之邑。子大叔曰。国皆其国也。奚独賂焉。子産曰。無欲実難。皆得其欲。以従其事。而要其成。非我有成。其在人乎。何愛於邑。邑将焉往。子大叔曰。若四国何。子産曰。非相違也。而相従也。四国何尤焉。鄭書有之曰。安定国家。必大焉先。姑先安大。以待其所帰。既伯石懼而帰邑。卒与之。伯有既死。使大史命伯石為卿。辞。大史退。則請命焉。復命之。又辞。如是三。乃受策入拝。

書き下し

誰か敢へて子を犯さん。子善く之を相けよ。國は小なること無し。小にして能く大に事ふれば、國乃ち寬なり」と。子產政を為す。伯石に事有り、賂ひて之に邑を與ふ。子大叔曰く、「國は皆其の國なり。奚ぞ獨り賂ふや」と。子產曰く、「欲無きは實に難し。皆其の欲を得て、以て其の事に從ひ、其の成を要む。我の成すに非ず、其れ人に在らんや。何ぞ邑を愛しまん。邑將た焉くにか往かん」と。子大叔曰く、「四國を若何せん」と。子產曰く、「相違ふに非ずして、相從ふなり。四國何をか尤めん。鄭書に之有りて曰く、『國家を安定するには、必ず大を焉れ先にす』と。姑く先づ大を安んじ、以て其の歸する所を待たん」と。既にして伯石懼れて邑を歸す。卒に之を與ふ。伯有既に死し、大史をして伯石に命じて卿と為さしむ。辭す。大史退けば、則ち命を請ふ。復た之に命ず。又辭す。是くの如きこと三たびにして、乃ち策を受けて入りて拜す。

現代語訳

誰があなたに逆らえましょう。あなたはよく君を補佐してください。国は小さいことが問題なのではありません。小国でもうまく大国に仕えれば、国にはゆとりが生まれるのです」。子産が政治を執った。伯石(公孫段)に用事を任せることになり、見返りとして邑を与えた。子大叔(游吉)が言った。「国は誰にとっても自分の国です。なぜ彼だけに贈り物をするのですか」。子産は言った。「欲のない人間を求めるのは実に難しい。皆にそれぞれ欲しいものを与えて仕事に従わせ、その成果を求めるのだ。成果は私一人が挙げるのではなく、人々の働きにかかっているのではないか。どうして邑を惜しもうか。邑がどこへ行ってしまうというのだ(国の中にあることに変わりはない)」。子大叔は言った。「四方の国々にどう思われるでしょうか」。子産は言った。「これは互いに背き合うためではなく、従い合うためのことだ。四方の国々が何を咎めようか。鄭の古い書に『国家を安定させるには、必ず大きな家を先にする』とある。ひとまず大族を安んじて、落ち着くところを待とう」。やがて伯石は恐れて邑を返上したが、子産は最終的にそれを与えた。伯有が死んだあと、子産は大史に命じて伯石を卿に任命させた。伯石は辞退した。ところが大史が退くと、伯石は任命を願い出た。再び任命すると、また辞退した。こうして三度繰り返したのち、ようやく任命の策書を受け取り、入って拝礼した。

解説

子皮に政権を託された子産が、最初に手をつけた人事の話である。伯石(公孫段)は欲が深く、子産は仕事を任せる代わりに邑を与えた。子大叔が特定の者だけを優遇するのかと問うと、子産は「欲無きは実に難し」と答える。人に無欲を求めるのではなく、各人の欲を満たして仕事に向かわせ、成果を求めるという現実的な人間観である。邑は国の外へ消えるわけではないという言葉にも、全体を見渡す計算がある。「国家を安定するには、必ず大を先にす」という鄭書の引用は、大族をまず安心させて政権の基盤を固める順序を示している。一方の伯石は、卿に任じられると辞退し、使者が去ると任命を請い、それを三度繰り返した。謙譲の形だけを演じるこの姿を子産は嫌ったことが次の句で語られる。嫌っている相手でも使うべきところで使う冷静さと、欲を正面から認める統治の姿勢は、人の動機をどう扱うかという問いを投げかける。

この章句が説くこと

人事動機づけ現実主義大族謙譲

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