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春秋左氏伝 / 襄公二十八年 晏子、邶殿を受けず

對曰。慶氏之邑。足欲故亡。吾邑不足欲也。益之以邶殿。乃足欲。足欲。亡無日矣。在外。不得宰吾一邑。不受邶殿。非惡富也。恐失富也。且夫富如布帛之有幅焉。為之制度。使無遷也。夫民生厚而用利。於是乎正德以幅之。使無黜嫚。謂之幅利。利過則為敗。吾不敢貪多。所謂幅也。與北郭佐邑六十。受之。與子雅邑。辭多受少。與子尾邑。受而稍致之。公以為忠。故有寵。釋盧蒲嫳于北竟。求崔杼之尸。將戮之。不得。叔孫穆子曰。必得之。武王有亂臣十人。崔杼其有乎。不十人。不足以葬。既崔氏之臣曰。與我其拱璧。吾獻其柩。於是得之。

新字:対曰。慶氏之邑。足欲故亡。吾邑不足欲也。益之以邶殿。乃足欲。足欲。亡無日矣。在外。不得宰吾一邑。不受邶殿。非悪富也。恐失富也。且夫富如布帛之有幅焉。為之制度。使無遷也。夫民生厚而用利。於是乎正徳以幅之。使無黜嫚。謂之幅利。利過則為敗。吾不敢貪多。所謂幅也。与北郭佐邑六十。受之。与子雅邑。辞多受少。与子尾邑。受而稍致之。公以為忠。故有寵。釈盧蒲嫳于北竟。求崔杼之尸。将戮之。不得。叔孫穆子曰。必得之。武王有乱臣十人。崔杼其有乎。不十人。不足以葬。既崔氏之臣曰。与我其拱璧。吾献其柩。於是得之。

書き下し

對へて曰く、「慶氏の邑は、欲を足す、故に亡ぶ。吾が邑は欲を足さざるなり。之に益すに邶殿を以てせば、乃ち欲を足さん。欲を足さば、亡ぶること日無からん。外に在りては、吾が一邑をも宰するを得ず。邶殿を受けざるは、富を惡むに非ざるなり、富を失はんことを恐るるなり。且つ夫れ富は布帛の幅有るが如し。之が制度を為りて、遷ること無からしむ。夫れ民は生厚くして用利なり。是に於いてか德を正して以て之を幅し、黜嫚すること無からしむ。之を幅利と謂ふ。利過ぐれば則ち敗を為す。吾敢へて多きを貪らず。所謂幅なり」と。北郭佐に邑六十を與ふ、之を受く。子雅に邑を與ふ、多きを辭して少なきを受く。子尾に邑を與ふ、受けて稍く之を致す。公以て忠と為す、故に寵有り。盧蒲嫳を北竟に釋(はな)つ。崔杼の尸を求め、將に之を戮せんとす。得ず。叔孫穆子曰く、「必ず之を得ん。武王に亂臣十人有り。崔杼其れ有らんや。十人ならずんば、以て葬るに足らず」と。既にして崔氏の臣曰く、「我に其の拱璧を與へよ、吾其の柩を獻ぜん」と。是に於いて之を得たり。

現代語訳

晏子は答えた。「慶氏の邑は欲望を満たすほどに多かった。だから滅んだのです。私の邑は欲望を満たすほどではありません。そこに邶殿を加えれば、欲望を満たすことになります。欲望を満たせば、滅びるのに日数はかかりません。そうなって国外に逃れれば、私はたった一つの邑さえ治めることができなくなります。邶殿を受けないのは、富を嫌うからではありません。富を失うことを恐れるからです。そもそも富というものは、布や絹に幅があるようなものです。その幅に決まりを作って、勝手に広がらないようにするのです。民は暮らしを豊かにし、用いるものを便利にしたいと望みます。そこで徳を正してその幅を定め、度を外したり怠ったりしないようにする。これを利に幅をつける、というのです。利が度を過ぎれば失敗を招きます。私はあえて多くを貪らない。これがいわゆる幅なのです」。北郭佐(北郭子車)には六十の邑を与えたところ、彼は受け取った。子雅に邑を与えると、多い分は辞退して少しだけ受け取った。子尾に邑を与えると、いったん受け取ってから少しずつ返上した。景公はこれを忠であるとし、そのため子尾は寵愛を受けた。盧蒲嫳は北の国境に追放した。崔杼の屍を探し出して、辱めを加えようとしたが、見つからなかった。叔孫穆子(魯の叔孫豹)は言った。「必ず見つかるだろう。武王には国を治める臣が十人いた。崔杼にそんな臣がいようか。十人の臣がいなければ、ひそかに葬りおおせることはできない」。まもなく崔氏の家臣が言った。「崔杼の大きな璧玉を私にくだされば、その柩を差し出しましょう」。こうして崔杼の屍が見つかった。

解説

慶氏の滅亡後、晏嬰は恩賞として邶殿の大領を与えられたが辞退した。その理由が「幅利」の論である。慶氏は欲を満たすほどの邑を持ったから滅んだ。自分が富を拒むのは富を嫌うからではなく、富を失うのを恐れるからだ、と晏嬰は言う。富は布の幅のようなもので、徳によって幅を定め、はみ出さないようにしておく。利が度を超えると失敗を招く、という考え方である。同じ場面で、北郭佐はそのまま受け、子雅は減らして受け、子尾は受けてから少しずつ返した。受け方の違いが人柄と処世を示している。後半は崔杼の屍の捜索で、叔孫穆子は、崔杼には命がけで秘密を守る臣が十人もいないから必ず見つかると予言し、実際に家臣が璧玉と引き換えに柩を差し出した。報酬や権限を受けるときに、自らその上限を決めておくという発想は、今も考えるに値する。

この章句が説くこと

節度幅利富忠誠自制

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