葉隠 / 聞書第一
大酒にて後れを取りたる人數多なり。別して殘念の事なり。先づ我が丈け分を能く覺え、その上は飮まぬ樣にありたきなり。その内にも、時により、醉ひ過す事あり。酒座には就中氣をぬかさず、圖らぬ事出來ても間に合ふ樣に、了簡あるべき事なり。
新字:大酒にて後れを取りたる人数多なり。別して残念の事なり。先づ我が丈け分を能く覚え、その上は飮まぬ様にありたきなり。その内にも、時により、酔ひ過す事あり。酒座には就中気をぬかさず、図らぬ事出来ても間に合ふ様に、了簡あるべき事なり。
書き下し
大酒にて後れを取りたる人、数多(あまた)なり。別して残念の事なり。まず我が丈け分(たけぶん)をよく覚え、その上は飲まぬ様にありたきなり。そのうちにも、時により、酔い過す事あり。酒座(しゅざ)には就中(なかんずく)気をぬかさず、図(はか)らぬ事出来(しゅったい)ても間に合う様に、了簡(りょうけん)あるべき事なり。また酒宴は……
現代語訳
大酒がもとで不覚を取った者は数多くいる。まことに残念なことだ。まずは自分の適量をよく心得て、それ以上は飲まないようにありたいものだ。それでも、時と場合によっては酔いすぎてしまうことがある。だから酒の席ではとりわけ気を抜かず、思いがけない事態が起きてもとっさに対応できるよう、心構えをしておくべきである。
解説
酒の失敗を戒めた実践的な一条です。大酒がもとで不覚を取り、身を誤った武士が数多くいたことを踏まえ、まず自分の適量を知り、それ以上飲まぬことを説きます。そのうえで、それでも酔いすぎる時はあるものだから、酒席でこそ気を抜かず、不意の事態にも対応できる心構えを保てと戒めます。『葉隠』には「酒は公界物」「酒に人の心も見える」と酒席での振る舞いを重んじる条もあり、酒を人物が試される場ととらえる一貫した見方がうかがえます。現代でも、酒の席での気の緩みが信用を損なう例は多く、自分の限界を知って節度を保つことは、そのまま通用する身の処し方でしょう。
この章句が説くこと
節度自分の限界を知る酒席の心得気を抜かない不覚を取らない自制
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説苑・雜言孔子曰く、「中人の情は、余り有れば則ち侈り、足らざれば則ち倹にし、禁無ければ則ち淫し、度無ければ則ち失し、欲を縦にすれば則ち敗る。飲食に量有り、衣服に節有り、宮室に度有り、畜聚に数有り、車器に限有るは、以て乱の源を防ぐなり。故に夫れ度量は明らかにせざる可からず、善言は聴かざる可からず」と。
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論語・述而篇子は釣りして綱せず、弋して宿を射ず。
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説苑・說叢聖人の衣や體に便にして以て身を安んじ、其の食や腹に安んず。衣を適し食を節し、口目に聽かず。
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論語・憲問篇子、公叔文子を公明賈に問いて曰く、「信なるか、夫子言わず笑わず取らざるか。」公明賈対えて曰く、「以て告ぐる者の過ちなり。夫子は時にして然る後に言う、人其の言を厭わず。楽しみて然る後に笑う、人其の笑いを厭わず。義にして然る後に取る、人其の取るを厭わず。」子曰く、「其れ然り。豈に其れ然らんや。」