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春秋左氏伝 / 襄公二十一年 深山大沢、竜蛇を生む

初。叔向之母妒叔虎之母美而不使。其子皆諫其母。其母曰。深山大澤。實生龍蛇。彼美。余懼其生龍蛇以禍女。女敝族也。國多大寵。不仁人間之。不亦難乎。余何愛焉。使往視寢。生叔虎。美而有勇力。欒懷子嬖之。故羊舌氏之族及於難。欒盈過於周。周西鄙掠之。辭於行人曰。天子陪臣盈。得罪於王之守臣。將逃罪。罪重於郊甸。無所伏竄。敢布其死。昔陪臣書能輸力於王室。王施惠焉。其子黶不能保任其父之勞。大君若不棄書之力。亡臣猶有所逃。若棄書之力。而思黶之罪。臣戮餘也。將歸死於尉氏。不敢還矣。敢布四體。惟大君命焉。王曰。尤而效之。其又甚焉。使司徒禁掠欒氏者。歸所取焉。使候出諸轘轅。

新字:初。叔向之母妬叔虎之母美而不使。其子皆諫其母。其母曰。深山大沢。実生竜蛇。彼美。余懼其生竜蛇以禍女。女敝族也。国多大寵。不仁人間之。不亦難乎。余何愛焉。使往視寝。生叔虎。美而有勇力。欒懐子嬖之。故羊舌氏之族及於難。欒盈過於周。周西鄙掠之。辞於行人曰。天子陪臣盈。得罪於王之守臣。将逃罪。罪重於郊甸。無所伏竄。敢布其死。昔陪臣書能輸力於王室。王施恵焉。其子黶不能保任其父之労。大君若不棄書之力。亡臣猶有所逃。若棄書之力。而思黶之罪。臣戮余也。将帰死於尉氏。不敢還矣。敢布四体。惟大君命焉。王曰。尤而効之。其又甚焉。使司徒禁掠欒氏者。帰所取焉。使候出諸轘轅。

書き下し

初め、叔向の母、叔虎の母の美なるを妒みて使はしめず。其の子皆其の母を諫む。其の母曰く、「深山大澤、實に龍蛇を生ず。彼は美なり。余其の龍蛇を生みて以って女(なんぢ)に禍せんことを懼る。女は敝族なり。國に大寵多く、不仁の人之を間せば、亦た難からずや。余何をか愛まん」と。往きて寢を視しむ。叔虎を生む。美にして勇力有り。欒懷子之を嬖す。故に羊舌氏の族難に及ぶ。欒盈周を過ぐ。周の西鄙之を掠む。行人に辭して曰く、「天子の陪臣盈、罪を王の守臣に得て、將に罪を逃れんとす。罪を郊甸に重ぬれば、伏竄する所無し。敢へて其の死を布く。昔陪臣書、能く力を王室に輸し、王惠を施せり。其の子黶、其の父の勞を保任すること能はず。大君若し書の力を棄てずんば、亡臣猶ほ逃るる所有らん。若し書の力を棄てて、黶の罪を思はば、臣は戮餘なり。將に歸りて尉氏に死せんとし、敢へて還らず。敢へて四體を布く、惟だ大君焉に命ぜよ」と。王曰く、「尤めて之に效はば、其れ又甚だし」と。司徒をして欒氏を掠むる者を禁じ、取る所を歸さしむ。候をして諸を轘轅より出さしむ。

現代語訳

かつて、叔向(羊舌肸)の母は、叔虎の母(夫の妾)が美しいのを妬んで、夫の寝所に侍らせなかった。叔向ら息子たちはみな母を諫めた。母は言った。「深い山や大きな沢は、まことに龍や蛇を生むものです。あの女は美しい。私は、あの女が龍蛇のような子を生んで、お前たちに禍をもたらすのを恐れているのです。お前たちは衰えた一族です。国には大きな寵愛を受けた家が多く、不仁な者がその間に入って仲を裂けば、難儀なことになるではありませんか。私が何を惜しむことがありましょう」。そう言いながらも、結局は彼女を寝所に行かせた。こうして生まれたのが叔虎である。美しく勇力があった。欒懐子(欒盈)は彼を寵愛した。そのため羊舌氏の一族は欒氏の難に巻き込まれることになった。欒盈は晋を追われて周の領内を通った。周の西の辺境の者が彼の一行を略奪した。欒盈は周の行人(接待の官)に申し述べた。「天子の陪臣である盈は、王の守臣(晋侯)に罪を得て、罪を逃れようとしております。ここでまた王の郊外の地で罪を重ねれば、身を隠すところがありません。あえて死を覚悟して申し上げます。昔、陪臣である祖父の書(欒書)は、王室のために力を尽くし、王は恩恵を施されました。その子の黶(欒黶、盈の父)は、父の功労を保つことができませんでした。大君(周王)がもし書の功を棄てられないなら、逃亡の臣にもなお逃げ場があるでしょう。もし書の功を棄て、黶の罪をお考えになるなら、私は刑戮を免れた残りの身にすぎません。帰って尉氏(晋の刑官)のもとで死ぬまでで、もうここには戻りません。あえて手足を投げ出して申し上げます。ただ大君のご命令に従います」。王は言った。「晋が欒氏を追ったことを咎めておきながら、自分も同じことをすれば、それこそもっとひどい」。そこで司徒に命じて欒氏から略奪することを禁じ、奪ったものを返させた。さらに斥候の役人に命じて、欒盈を轘轅の関から送り出させた。

解説

欒氏追放の余波が二つ描かれる。一つは叔向の家の過去である。叔向の母は、夫の妾が美しいことを警戒し、その子が一族に禍をもたらすと予言した。「深山大沢、実に竜蛇を生ず」は、非凡な環境からは非凡な人物が生まれるという意味で、のちに優れた人物の出自をほめる成語として使われる。だが母の言葉の本意は警戒にあった。実際、美しく勇力のある叔虎は欒盈に愛され、羊舌氏は連座することになる。もう一つは、周を通る欒盈が略奪に遭い、祖父欒書の功を引いて王に訴える場面である。周王の「尤めて之に效はば、其れ又甚だし」は、他者の非を責めながら同じことをするのが最も悪い、という判断で、王は略奪品を返させ欒盈を無事に送り出した。他人の失策を批判した者が、同じ立場に立ったときにどう振る舞うかが問われている。

この章句が説くこと

予見家の存続連座一貫性寛容

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