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春秋左氏伝 / 宣公十五年 結草の報い

六月,癸卯,晉荀林父敗赤狄于曲梁,辛亥,滅潞,酆舒奔衛,衛人歸諸晉,晉人殺之。王孫蘇與召氏、毛氏,爭政,使王子捷殺召戴公及毛伯衛,卒立召襄。秋,七月,秦桓公伐晉,次于輔氏。壬午,晉侯治兵于稷,以略狄土,立黎侯而還。及雒,魏顆敗秦師于輔氏,獲杜回,秦之力人也。初,魏武子有嬖妾,無子,武子疾,命顆曰:「必嫁是,疾病則曰:『必以為殉。』」及卒,顆嫁之,曰:「疾病則亂,吾從其治也。」及輔氏之役,顆見老人,結草以亢杜回,杜回躓而顛,故獲之。夜夢之曰:「余,而所嫁婦人之父也。爾用先人之治命,余是以報。」

新字:六月,癸卯,晋荀林父敗赤狄于曲梁,辛亥,滅潞,酆舒奔衛,衛人帰諸晋,晋人殺之。王孫蘇与召氏、毛氏,争政,使王子捷殺召戴公及毛伯衛,卒立召襄。秋,七月,秦桓公伐晋,次于輔氏。壬午,晋侯治兵于稷,以略狄土,立黎侯而還。及雒,魏顆敗秦師于輔氏,獲杜回,秦之力人也。初,魏武子有嬖妾,無子,武子疾,命顆曰:「必嫁是,疾病則曰:『必以為殉。』」及卒,顆嫁之,曰:「疾病則乱,吾従其治也。」及輔氏之役,顆見老人,結草以亢杜回,杜回躓而顛,故獲之。夜夢之曰:「余,而所嫁婦人之父也。爾用先人之治命,余是以報。」

書き下し

六月、癸卯、晉の荀林父赤狄を曲梁に敗る。辛亥、潞を滅ぼす。酆舒衛に奔る、衛人諸を晉に歸す、晉人之を殺す。王孫蘇召氏・毛氏と、政を爭ひ、王子捷をして召戴公及び毛伯衛を殺さしめ、卒に召襄を立つ。秋、七月、秦の桓公晉を伐ち、輔氏に次す。壬午、晉侯兵を稷に治め、以て狄の土を略し、黎侯を立てて還る。雒に及び、魏顆秦の師を輔氏に敗り、杜回を獲たり、秦の力人なり。初め、魏武子に嬖妾有り、子無し。武子疾みて、顆に命じて曰く、「必ず是を嫁がしめよ」と。疾病なるときは則ち曰く、「必ず以て殉と為せ」と。卒するに及び、顆之を嫁がしめて、曰く、「疾病なれば則ち亂る、吾其の治に從ふ」と。輔氏の役に及び、顆老人を見る、草を結びて以て杜回を亢ぐ。杜回躓きて顛る、故に之を獲たり。夜之を夢むるに曰く、「余は、而が嫁がしめし所の婦人の父なり。爾先人の治命を用ふ、余是を以て報ゆ」と。

現代語訳

六月癸卯の日、晋の荀林父が赤狄を曲梁で破り、辛亥の日に潞を滅ぼした。酆舒は衛に逃げたが、衛人は彼を晋に引き渡し、晋人はこれを殺した。王孫蘇(周の卿士)は召氏・毛氏と政権を争い、王子捷に召戴公と毛伯衛を殺させ、最後には召襄を召氏の当主に立てた。秋七月、秦の桓公が晋を攻め、輔氏に陣を置いた。壬午の日、晋侯(景公)は稷で軍を整え、狄の土地を攻め取り、黎侯を復位させて帰った。雒まで来たところで、魏顆が秦軍を輔氏で破り、杜回を捕らえた。杜回は秦の力士である。これより前、魏武子(魏犨、魏顆の父)には寵愛する妾がいたが、子がなかった。武子は病気になったとき、顆に命じて「必ずこの女を嫁がせてやれ」と言った。ところが病が重くなると、「必ずこの女を殉死させよ」と言った。武子が亡くなると、顆はこの女を嫁がせてやり、「病が重くなれば心は乱れる。私は父の正気のときの言いつけに従う」と言った。輔氏の戦いのとき、顆は一人の老人が草を結んで杜回の行く手を遮るのを見た。杜回はそれにつまずいて倒れたので、捕らえることができた。その夜、顆の夢にその老人が現れて言った。「私は、あなたが嫁がせてくれた女の父です。あなたは先人の正気のときの命に従ってくれました。私はそれで恩を報いたのです」。

解説

狄の討伐と周王室の内紛の記事に続いて、よく知られた「結草」の話が置かれている。魏顆の父魏武子は、寵愛する妾を自分の死後に嫁がせよと命じたが、病が重くなると殉死させよと言い改めた。父の死後、魏顆は前の命に従って彼女を嫁がせる。理由は「疾病なれば則ち亂る、吾其の治に從ふ」、重病で乱れた心での言葉より、正気のときの判断に従うというものだった。後に秦との戦いで、一人の老人が草を結んで敵の力士杜回をつまずかせ、魏顆は大功を立てる。その夜の夢で老人は、あの女の父だと名乗った。ここから「結草」は、死後にまで恩に報いることを言う言葉となり、「銜環」と並べて「結草銜環」として後代に定着した。夢の話そのものは伝説として読めばよい。読みどころは魏顆の判断で、同じ人の相反する指示のうち、どちらがその人の本意かを見極めて従った点にある。指示の文言より、指示が出された状況を見て判断するという考え方である。

この章句が説くこと

報恩判断本意殉死孝

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