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春秋左氏伝 / 宣公十二年 進みては忠を尽くす

是役也,鄭石制,實入楚師,將以分鄭,而立公子魚臣。辛未,鄭殺僕叔及子服。君子曰:「史佚所謂毋怙亂者,謂是類也。詩曰:『亂離瘼矣,爰其適歸。』歸於怙亂者也夫。」鄭伯、許男,如楚。秋,晉師歸,桓子請死,晉侯欲許之。士貞子諫曰:「不可。城濮之役,晉師三日穀,文公猶有憂色。左右曰:『有喜而憂,如有憂而喜乎?』公曰:『得臣猶在,憂未歇也。』困獸猶鬥,況國相乎?及楚殺子玉,公喜而後可知也,曰:『莫余毒也已。』是晉再克而楚再敗也。楚是以再世不競。今天或者大警晉也,而又殺林父以重楚勝,其無乃久不競乎?林父之事君也,進思盡忠,退思補過,社稷之衛也,若之何殺之?夫其敗也,如日月之食焉,何損於明?」晉侯使復其位。

新字:是役也,鄭石制,実入楚師,将以分鄭,而立公子魚臣。辛未,鄭殺僕叔及子服。君子曰:「史佚所謂毋怙乱者,謂是類也。詩曰:『乱離瘼矣,爰其適帰。』帰於怙乱者也夫。」鄭伯、許男,如楚。秋,晋師帰,桓子請死,晋侯欲許之。士貞子諫曰:「不可。城濮之役,晋師三日穀,文公猶有憂色。左右曰:『有喜而憂,如有憂而喜乎?』公曰:『得臣猶在,憂未歇也。』困獣猶鬥,況国相乎?及楚殺子玉,公喜而後可知也,曰:『莫余毒也已。』是晋再克而楚再敗也。楚是以再世不競。今天或者大警晋也,而又殺林父以重楚勝,其無乃久不競乎?林父之事君也,進思尽忠,退思補過,社稷之衛也,若之何殺之?夫其敗也,如日月之食焉,何損於明?」晋侯使復其位。

書き下し

是の役や、鄭の石制、實に楚の師を入れ、將に以て鄭を分ちて、公子魚臣を立てんとす。辛未、鄭僕叔及び子服を殺す。君子曰く、「史佚の所謂亂を怙むこと毋かれとは、是の類を謂ふなり。詩に曰く、『亂離瘼めり、爰に其れ適き歸せん』と。亂を怙む者に歸するかな」と。鄭伯・許男、楚に如く。秋、晉の師歸る。桓子死を請ふ、晉侯之を許さんと欲す。士貞子諫めて曰く、「不可なり。城濮の役、晉の師三日穀す、文公猶ほ憂色有り。左右曰く、『喜び有りて憂ふ、如し憂ひ有らば喜ばんか』と。公曰く、『得臣猶ほ在り、憂ひ未だ歇まざるなり』と。困獸すら猶ほ鬥ふ、況んや國相をや。楚の子玉を殺すに及びて、公喜びて而る後に知るべきなり、曰く、『余を毒する莫きのみ』と。是れ晉再び克ちて楚再び敗るるなり。楚是を以て再世競はず。今天或いは者大いに晉を警むるなり、而るに又林父を殺して以て楚の勝ちを重ねば、其れ乃ち久しく競はざること無からんや。林父の君に事ふるや、進みては忠を盡くさんことを思ひ、退きては過ちを補はんことを思ふ、社稷の衛なり、若之何ぞ之を殺さん。夫れ其の敗るるや、日月の食の如し、何ぞ明を損せん」と。晉侯其の位に復せしむ。

現代語訳

この戦いのとき、鄭の石制(子服)は実は楚軍を引き入れ、鄭を分割して公子魚臣(僕叔)を君に立てようとしていた。辛未の日、鄭は僕叔と子服を殺した。君子は言った。「史佚(周初の史官)が『乱に乗じてそれを頼みとするな』と言ったのは、こういう類のことを指すのだ。詩に『乱れ離れて病み苦しむ、いったいどこへ身を寄せればよいのか』とある。その禍いは、乱を頼みとした者自身に帰するのであろう」。鄭伯と許男は楚に赴いた。秋、晋軍が帰国した。桓子(荀林父)は敗戦の責任をとって死罪を願い出て、晋侯(景公)はそれを許そうとした。士貞子(士渥濁)が諫めて言った。「なりません。城濮の戦いのとき、晋軍は楚の陣に残された穀物を三日間食べるほどの大勝を収めましたが、文公はなお憂い顔でした。側近が『喜ぶべきときに憂えておられる。では憂うべきときには喜ばれるのですか』と尋ねると、公は『得臣(子玉、楚の令尹)がまだ生きている。憂いはまだ終わらない』と言われました。追い詰められた獣でさえなお戦います。まして一国の宰相ならなおさらです。楚が子玉を殺すに及んで、ようやく公の喜びがはっきりと見て取れ、『もう私を害する者はいない』と言われました。これは晋が二度勝ち、楚が二度負けたということです。楚はそのために二代にわたって晋と張り合えませんでした。いま天はおそらく晋に大きな警告を与えているのです。それなのにさらに林父を殺して楚の勝利を重ねてやるなら、晋は長く張り合えなくなるのではありませんか。林父が君にお仕えする姿は、進んでは忠を尽くそうと思い、退いては過ちを補おうと思うもので、国家の守りです。どうしてこれを殺せましょう。そもそも彼の敗北は、日食や月食のようなものです。どうしてその明るさを損ないましょうか」。晋侯は荀林父をもとの地位に戻させた。

解説

邲で大敗した晋の総大将荀林父は、帰国すると自ら死罪を願い出た。景公がそれを許しかけたとき、士貞子が城濮の戦いを引いて止める。四十年近く前、晋の文公は楚に大勝しながら、敵将の子玉が生きているうちは喜ばなかった。楚が敗戦の責めで子玉を死なせたとき、初めて「余を毒する莫きのみ」と喜んだ。負けた側が有能な将を自ら殺せば、敵にもう一度勝たせることになる。士貞子はこの構図をそのまま晋に当てはめた。そのうえで荀林父を「進みては忠を盡くさんことを思ひ、退きては過ちを補はんことを思ふ」人物と評し、敗北は日食・月食のようなもので明るさそのものは損なわれないと言う。この「進思盡忠、退思補過」は『孝経』にも見える臣下の理想として後代に引かれた。「困獣猶闘」も成語として残る。一度の失敗で人を切るのか、立て直しに使うのか。人事の判断を、敵から見てどう映るかという視点で語った諫言である。

この章句が説くこと

失敗の処遇人材責任諫言再起

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