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春秋左氏伝 / 僖公二十八年 天王、河陽に狩す

秋,七月,丙申,振旅愷以入于晉,獻俘授馘,飲至大賞,徵會討貳。殺舟之僑以徇于國,民於是大服。君子謂:「文公其能刑矣!三罪而民服。《詩》云:『惠此中國,以綏四方。』不失賞刑之謂也。」冬,會于溫,討不服也。衛侯與元咺訟,甯武子為輔,鍼莊子為坐,士榮為大士。衛侯不勝。殺士榮,刖鍼莊子,謂甯俞忠而免之。執衛侯,歸之于京師,寘諸深室。甯子職納橐饘焉。元咺歸于衛,立公子瑕。是會也,晉侯召王,以諸侯見,且使王狩。仲尼曰:「以臣召君,不可以訓。」故書曰:「天王狩于河陽。」言非其地也,且明德也。壬申,公朝于王所。丁丑,諸侯圍許。

新字:秋,七月,丙申,振旅愷以入于晋,献俘授馘,飲至大賞,徴会討貳。殺舟之僑以徇于国,民於是大服。君子謂:「文公其能刑矣!三罪而民服。《詩》云:『恵此中国,以綏四方。』不失賞刑之謂也。」冬,会于温,討不服也。衛侯与元咺訟,甯武子為輔,鍼荘子為坐,士栄為大士。衛侯不勝。殺士栄,刖鍼荘子,謂甯兪忠而免之。執衛侯,帰之于京師,寘諸深室。甯子職納橐饘焉。元咺帰于衛,立公子瑕。是会也,晋侯召王,以諸侯見,且使王狩。仲尼曰:「以臣召君,不可以訓。」故書曰:「天王狩于河陽。」言非其地也,且明徳也。壬申,公朝于王所。丁丑,諸侯囲許。

書き下し

秋、七月、丙申、振旅して愷(かい)して以って晉に入り、俘を獻じ馘(かく)を授け、飲至して大いに賞し、會を徵して貳を討つ。舟之僑を殺して以って國に徇ふ。民是に於いて大いに服す。君子謂ふ、「文公其れ能く刑せり。三罪して民服す。《詩》に云ふ、『此の中國を惠みて、以って四方を綏んず』と。賞刑を失はざるの謂なり」と。冬、溫に會す、服せざるを討つなり。衛侯元咺と訟ふ。甯武子輔と為り、鍼莊子坐と為り、士榮大士と為る。衛侯勝たず。士榮を殺し、鍼莊子を刖(あしき)り、甯俞を忠なりと謂ひて之を免ず。衛侯を執へ、之を京師に歸し、諸を深室に寘く。甯子職として橐饘(たくせん)を納る。元咺衛に歸り、公子瑕を立つ。是の會や、晉侯王を召し、諸侯を以って見えしめ、且つ王をして狩せしむ。仲尼曰く、「臣を以って君を召すは、以って訓とす可からず」と。故に書して曰く、「天王河陽に狩す」と。其の地に非ざるを言ひ、且つ德を明らかにするなり。壬申、公王の所に朝す。丁丑、諸侯許を圍む。

現代語訳

秋七月丙申の日、晋軍は隊列を整え、凱歌をあげて晋に入った。祖廟に捕虜を献じ、討ち取った敵の左耳を納め、帰還の祝宴を開いて大いに賞を与え、諸侯に会合を呼びかけ、二心ある国を討つことにした。舟之僑(しゅうしきょう)を斬って国中に示した。民はこれによって大いに心服した。君子は言った。「文公はよく刑を行うことができた。三つの罪(顛頡・祁瞞・舟之僑)を罰して民が服した。『詩経』に『この中原の国を恵み、それによって四方を安んずる』とあるのは、賞と刑を誤らないことを言うのである」。冬、温で会合した。服従しない国を討つためである。衛侯(成公)は元咺と訴訟で争った。甯武子が衛侯の補佐となり、鍼荘子が衛侯の代わりに被告の座につき、士栄が弁論役(大士)となった。衛侯は敗訴した。晋は士栄を殺し、鍼荘子の足を斬る刑に処したが、甯俞(甯武子)は忠臣であるとして罪を免じた。晋は衛侯を捕らえて周の都に送り、奥深い部屋に幽閉した。甯武子は役目として衣類と粥を差し入れた。元咺は衛に帰り、公子瑕を君に立てた。この会合で、晋侯は周王を呼び寄せ、諸侯を率いて王に謁見させ、しかも王に狩りをさせるという名目をとった。仲尼(孔子)は言った。「臣下が君主を呼びつけるのは、手本とすることはできない」。そこで『春秋』は「天王、河陽に狩す」と記したのである。そこが王の本来いるべき地ではないことを言い表し、しかも晋の功徳を明らかにするためである。壬申の日、公(魯の僖公)は王のいる所に参朝した。丁丑の日、諸侯は許を包囲した。

解説

城濮の戦いの締めくくりとして、晋の文公の賞罰と温の会が語られる。軍令違反の顛頡・祁瞞・舟之僑の三人を罰し、民が服したことを、君子は「能く刑せり」と評した。凱旋して大賞を与えるだけではなく、功臣でも規律を破れば処断する。賞と刑の両方が揃って初めて統率が成り立つという見方である。温の会では、衛侯と臣下の元咺が晋の前で争い、君主の側が敗訴する。代理人が処刑され、忠臣の甯武子だけが赦されて獄中の君に食を運ぶ。そして最も有名なのが「天王河陽に狩す」の書法である。実際には晋侯が王を呼びつけたのだが、孔子はそれを臣が君を召したと書くわけにいかず、王が自ら狩りに出たという形で記した。事実を曲げたのではなく、名分を守りつつ「其の地に非ざる」ことを読み取らせる書き方である。力関係が逆転しても、記録はどの立場から書くかを選ぶ。

この章句が説くこと

賞罰軍紀名分書法忠誠

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