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樵談治要抄録 / 威勢は徳に宿る

一天下主領の人かならず威勢あるべき事、人の威勢は善惡にわたるべし、道理をしれる人には、はぢおそれてまことに歸伏する事有、又無理非道の人には、とがめられじとて心ならずおじはゞかる事有、三尺の利劔は、箱の中を出でざれども人是を恐れ、いかづちの聲は、百里の外に聞えてきもをけすがごとし、又猛虎は深山に有時、もゝのけだ物をのゝきふるふ、麒麟は角のうへにしゝ有によりて、いさほひあれ共人をやぶらず、是を聖人は威ありてたけからずとの給へり、此故に武の道は、威勢有を其德とす、その威勢といふは、ちかきより遠きに及ぼし、少事によりて大事も成就す、近をいるかせにすれば、遠き人聞傳て、おそるゝ心なし、少事を指をかれば、大儀(事歟)はいよ〱成事かたし、法令の定むる所、理に當て行はるゝヿを施行せざるを、違勅の人といひて、一段の罪科あるなり、人の訴訟理にまかせてかへし付らるゝ所に、この間もち付たる人、難澁を出すヿあり、誠不便なる事ならば、をつてかはりの地をあて行はるゝとも、理をば理とつけらるべし、それに猶違亂を出すヿあらば、所當の罪科なくては有べからず、

新字:一天下主領の人かならず威勢あるべき事、人の威勢は善悪にわたるべし、道理をしれる人には、はぢおそれてまことに帰伏する事有、又無理非道の人には、とがめられじとて心ならずおじはゞかる事有、三尺の利剣は、箱の中を出でざれども人是を恐れ、いかづちの声は、百里の外に聞えてきもをけすがごとし、又猛虎は深山に有時、もゝのけだ物をのゝきふるふ、麒麟は角のうへにしゝ有によりて、いさほひあれ共人をやぶらず、是を聖人は威ありてたけからずとの給へり、此故に武の道は、威勢有を其徳とす、その威勢といふは、ちかきより遠きに及ぼし、少事によりて大事も成就す、近をいるかせにすれば、遠き人聞伝て、おそるゝ心なし、少事を指をかれば、大儀(事歟)はいよ〱成事かたし、法令の定むる所、理に当て行はるゝヿを施行せざるを、違勅の人といひて、一段の罪科あるなり、人の訴訟理にまかせてかへし付らるゝ所に、この間もち付たる人、難渋を出すヿあり、誠不便なる事ならば、をつてかはりの地をあて行はるゝとも、理をば理とつけらるべし、それに猶違乱を出すヿあらば、所当の罪科なくては有べからず、

書き下し

一天下主領の人かならず威勢あるべき事、人の威勢は善惡にわたるべし、道理をしれる人には、はぢおそれてまことに歸伏する事有、又無理非道の人には、とがめられじとて心ならずおじはゞかる事有、三尺の利劔は、箱の中を出でざれども人是を恐れ、いかづちの聲は、百里の外に聞えてきもをけすがごとし、又猛虎は深山に有時、もゝのけだ物をのゝきふるふ、麒麟は角のうへにしゝ有によりて、いさほひあれ共人をやぶらず、是を聖人は威ありてたけからずとの給へり、此故に武の道は、威勢有を其德とす、その威勢といふは、ちかきより遠きに及ぼし、少事によりて大事も成就す、近をいるかせにすれば、遠き人聞傳て、おそるゝ心なし、少事を指をかれば、大儀(事歟)はいよ〱成事かたし、法令の定むる所、理に當て行はるゝヿを施行せざるを、違勅の人といひて、一段の罪科あるなり、人の訴訟理にまかせてかへし付らるゝ所に、この間もち付たる人、難澁を出すヿあり、誠不便なる事ならば、をつてかはりの地をあて行はるゝとも、理をば理とつけらるべし、それに猶違亂を出すヿあらば、所當の罪科なくては有べからず、

現代語訳

一、天下の主領たる人は必ず威勢があるべきこと。人の威勢は善悪にわたるでしょう。道理を知る人には、恥じ恐れて本当に帰伏することがあります。また無理非道の人には、咎められまいとして心ならずも恐れ憚ることがあります。三尺の利剣は、箱の中を出なくても人はこれを恐れ、雷の声は百里の外に聞こえて肝を消すようなものです。また猛虎は深山にいる時、百の獣が震えおののきます。麒麟は角の上に肉があるので、勇み立つことはあっても人を傷つけません。これを聖人は「威ありて猛からず」とおっしゃいました。このゆえに武の道は、威勢のあるのをその徳とします。その威勢というのは、近くから遠くに及ぼし、小さな事によって大事も成就するものです。近くをなおざりにすれば、遠い人は聞き伝えて、恐れる心がありません。小事を放っておけば、大事はいよいよ成し遂げがたくなります。法令の定めるところ、理に当たって行われることを施行しないのを、違勅の人と言って、一段の罪科があります。人の訴訟が理にしたがって返し付けられるところに、これまで持ち付けていた人が不服を出すことがあります。本当に気の毒なことなら、替わりの地を当てて行われるとしても、理は理と付けられるべきです。それでもなお違乱を出す者があれば、相当の罪科がなくてはなりません。

解説

上に立つ者には威勢が必要だが、それは猛々しさではなく、麒麟のように威があって傷つけない姿だと説かれます。威勢は近くから遠くへ、小事から大事へと及ぶもので、小事や身近な違反を放置すると大事が成り立たなくなります。理にかなった裁きに従わない者には、補償をしたうえでなお罪を問うべきとします。現代でも、規則違反を身近なところで曖昧にすれば全体の規律が緩みます。公正さと一貫性が、怒鳴り声よりも確かな威厳を生みます。

この章句が説くこと

威勢三尺の利剣麒麟小事違勅一貫性

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