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慎思録 / 巻之六

左傳晋隨武子曰。見可而進。知難而退。軍之善政也。葢用兵之道。進退有度。失度則不可也。夫不可進而進。可退而不退。是勇者之事。可爲太過。我國俗之所貴。然而法之所禁。由不利于軍也。可進而不進。不可退而退者。是怯者之事。可爲不及。國俗之所賤。是亦法之所禁。而不利于戰。四者雖勇怯不同。然有害用兵則一也。

新字:左伝晋随武子曰。見可而進。知難而退。軍之善政也。葢用兵之道。進退有度。失度則不可也。夫不可進而進。可退而不退。是勇者之事。可為太過。我国俗之所貴。然而法之所禁。由不利于軍也。可進而不進。不可退而退者。是怯者之事。可為不及。国俗之所賤。是亦法之所禁。而不利于戦。四者雖勇怯不同。然有害用兵則一也。

書き下し

左伝に晋の随武子曰く、可を見て進み、難きを知りて退くは、軍の善政なりと。蓋し兵を用ゐるの道は、進退に度有り。度を失へば則ち不可なり。夫れ進むべからずして進み、退くべくして退かざるは、是れ勇者の事、太過と為すべし。我が国俗の貴ぶ所なり。然り而して法の禁ずる所なり。軍に利あらざるに由るなり。進むべくして進まず、退くべからずして退く者は、是れ怯者の事、不及と為すべし。国俗の賤しむ所、是れ亦法の禁ずる所にして、戦ひに利あらず。四者は勇怯同じからずと雖も、然れども兵を用ゐるに害有るは則ち一なり。

現代語訳

『左伝』で晋の随武子は「可能と見れば進み、困難と知れば退くのが、軍のよい運営である」と言いました。思うに兵を用いる道では、進退に節度があり、節度を失えばいけません。そもそも進むべきでないのに進み、退くべきなのに退かないのは勇者のすることで、行き過ぎと言えます。わが国の風俗が尊ぶところです。しかし軍法の禁じるところでもあります。軍に利がないからです。進むべきなのに進まず、退くべきでないのに退くのは臆病者のすることで、不足と言えます。国の風俗が卑しむところで、これもまた軍法の禁じるところであり、戦いに利がありません。この四つは勇と怯の違いはあっても、兵を用いるのに害があることは同じです。

解説

「可を見て進み、難きを知りて退く」という『春秋左氏伝』宣公十二年の随武子(士会)の言葉を引き、進退の節度を説いた条です。無謀に進むことは日本の武士の気風が尊びがちですが、臆病と同じく軍の害だと益軒は言います。過ぎたるは猶及ばざるが如しという中庸の考えを兵法に当てはめたものです。事業でも、撤退の決断は前進と同じくらい大切です。勇ましさを美徳としすぎる空気の中でこそ、引き際を見極める冷静さが求められます。

この章句が説くこと

進退中庸左伝決断

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