慎思録 / 巻之六
呂與叔曰。物之性有近人之性者。人之性有近物之性者。愚謂。猫相乳。狗慕舊主。雎鳩之不匹居。慈烏反哺之類。是物之性近人之性者也。可以人而不如禽獸乎。如世上昏愚人。暗人倫之道。不孝不弟。背德忘恩。是人之性近物之性者。不恥其與鳥獸等也。
新字:呂与叔曰。物之性有近人之性者。人之性有近物之性者。愚謂。猫相乳。狗慕旧主。雎鳩之不匹居。慈烏反哺之類。是物之性近人之性者也。可以人而不如禽獣乎。如世上昏愚人。暗人倫之道。不孝不弟。背徳忘恩。是人之性近物之性者。不恥其与鳥獣等也。
書き下し
呂与叔曰く、物の性に人の性に近き者有り、人の性に物の性に近き者有りと。愚謂へらく、猫の相乳し、狗の旧主を慕ひ、雎鳩の匹居せず、慈烏の反哺するの類は、是れ物の性の人の性に近き者なり。人を以てして禽獣に如かざるべけんや。世上の昏愚の人の如き、人倫の道に暗く、不孝不弟、徳に背き恩を忘る。是れ人の性の物の性に近き者なり。其の鳥獣と等しきことを恥ぢざるなり。
現代語訳
呂与叔は「物の性質には人の性質に近いものがあり、人の性質には物の性質に近いものがある」と言いました。私が思うに、猫が互いに乳を与え合い、犬が昔の主人を慕い、雎鳩がむやみに連れ添わず、慈烏(からす)が親に餌を返すといったたぐいは、物の性質が人の性質に近いものです。人でありながら鳥獣に及ばなくてよいでしょうか。世の中の愚かな人は、人の道に暗く、親に孝行せず兄に従わず、徳に背き恩を忘れます。これは人の性質が物の性質に近いものです。鳥獣と同じであることを恥じないのです。
解説
動物にも人の道に近いふるまいがあり、逆に人の道を失った人は獣に近いと述べた条です。呂大臨(与叔)は程子の門人です。雎鳩は『詩経』関雎の鳥で夫婦の節度の象徴、慈烏の反哺は親孝行の喩えとして知られます。益軒は本草学者として動植物をよく観察しており、『大和本草』にもこうした生態の記述があります。恩を返す、慕う、節度を守るといった心は、人が特別に偉いから持つのではなく、失えば獣以下になるものだという戒めです。
この章句が説くこと
人倫孝恩禽獣性
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