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慎思録 / 巻之六

物皆有良能。犬之守夜。牛之耕。馬之馳。雞之司晨。金石草木魚介之有滋益于人。不可枚記。人能知其良能而用之。各得其相助矣。至人才之賢否。則比知於物之良能。却難者何也。葢人藏其心。不可測度。美惡皆在其心。不見其色也。故知物則易。知人則難。君人者。只任愛惡之私情。而用捨之。則捨其所長。而用其所短。宜乎用人之難也。所以知人要明也。

新字:物皆有良能。犬之守夜。牛之耕。馬之馳。鶏之司晨。金石草木魚介之有滋益于人。不可枚記。人能知其良能而用之。各得其相助矣。至人才之賢否。則比知於物之良能。却難者何也。葢人蔵其心。不可測度。美悪皆在其心。不見其色也。故知物則易。知人則難。君人者。只任愛悪之私情。而用捨之。則捨其所長。而用其所短。宜乎用人之難也。所以知人要明也。

書き下し

物皆良能有り。犬の夜を守り、牛の耕し、馬の馳せ、雞の晨を司る、金石草木魚介の人に滋益有る、枚記すべからず。人能く其の良能を知りて之を用ゐれば、各々其の相助くるを得。人才の賢否に至りては、則ち物の良能を知るに比べて、却つて難きは何ぞや。蓋し人は其の心を蔵して、測度すべからず。美悪皆其の心に在りて、其の色に見れざるなり。故に物を知るは則ち易く、人を知るは則ち難し。人に君たる者、只愛悪の私情に任せて之を用捨すれば、則ち其の長ずる所を捨てて、其の短なる所を用ゐる。宜なるかな人を用ゐるの難きこと。人を知るに明を要する所以なり。

現代語訳

物にはみな生まれつきの良い働きがあります。犬が夜の番をし、牛が田を耕し、馬が駆け、鶏が朝を告げ、金石・草木・魚介が人の役に立つことは、数え上げきれません。人がその働きを知って用いれば、それぞれに助けを得られます。ところが人材の賢愚となると、物の働きを知るのに比べてかえって難しいのはなぜでしょうか。思うに人は心を隠していて推し量れません。善し悪しはみな心の中にあって、顔色には表れないのです。だから物を知るのはやさしく、人を知るのは難しいのです。人の上に立つ者が、ただ好き嫌いの私情に任せて取捨すれば、その人の長所を捨てて短所を用いることになります。人を用いるのが難しいのも当然です。人を知るには明らかな眼が必要だというのはこのためです。

解説

物の効用は見ればわかるが、人の賢愚は心に隠れているので見抜きにくい、と人材登用の難しさを説く条です。『書経』皋陶謨に「人を知るは則ち哲」とあり、人を知ることは儒学で為政者の最も大切な知とされてきました。益軒は特に、好き嫌いの私情で人を選ぶと長所を捨て短所を用いる結果になると戒めます。採用や配置を考えるとき、自分の好みを一度脇に置き、その人が何に向いているかを見ようとする姿勢が求められます。

この章句が説くこと

知人人材用人私情

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