慎思録 / 巻之五
廢棄仁義忠信。日用彝倫。人道之所當行而不講。雖理義可令悅人心。而不嗜之。欲知雜細之末事。或好技藝。汲汲而專心於此。是所謂心不則德義之經。口不道忠信之言。可謂頑嚚而不明也。雖多材多藝。又何足貴乎哉。
新字:廃棄仁義忠信。日用彝倫。人道之所当行而不講。雖理義可令悦人心。而不嗜之。欲知雑細之末事。或好技芸。汲汲而専心於此。是所謂心不則徳義之経。口不道忠信之言。可謂頑嚚而不明也。雖多材多芸。又何足貴乎哉。
書き下し
仁義忠信、日用彝倫、人道の当に行ふべき所を廃棄して講ぜず、理義の人心を悦ばしむべしと雖も、之を嗜まず。雑細の末事を知らんと欲し、或いは技芸を好み、汲汲として心を此に専らにす。是れ所謂心に徳義の経に則らず、口に忠信の言を道はざる者にして、頑嚚にして明らかならずと謂ふべし。多材多芸なりと雖も、又何ぞ貴ぶに足らんや。
現代語訳
仁義や忠信、日々の人倫といった、人の道として行うべきことを捨てて講じず、理や義は人の心を喜ばせるものであるのに、それを好みません。細々とした末の事柄を知ろうとし、あるいは技芸を好んで、あくせくとそれに心を打ち込みます。これはいわゆる「心は徳義の筋道にのっとらず、口は忠信の言葉を言わない」者で、頑なで愚かで道理に暗いと言うべきです。才能が多く芸が多くても、どうして貴ぶに足りましょうか。
解説
「心に徳義の経に則らざるを頑と為し、口に忠信の言を道はざるを嚚と為す」は『左伝』僖公二十四年に見える言葉で、頑嚚は舜の父母を評した語として『書経』にも出ます。益軒は、人の道を学ぶことをおろそかにして、雑学や技芸ばかりに熱中する者を戒めます。前に見た博と約の議論や、詩文への戒めと同じ趣旨です。多芸多才は悪いことではありませんが、人としての基本を欠いては意味がありません。スキルや知識を増やすことに忙しくて、人としての誠実さを磨くことを忘れていないかを問う一条です。
この章句が説くこと
人倫仁義忠信本末技芸
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