慎思録 / 巻之五
四民各有所職。唯爲士者。以事君濟民爲職。故在衆民之上。而食民之所貢。必須足濟斯民。而後享斯民之養。不然則素餐而巳矣。凡享其養者。勞其勤死其事而可也。苟受其養而廢其職。雖無譴責之者。豈可不恥于其心乎。柳子厚送薛存義序。亦見斯意爾。
新字:四民各有所職。唯為士者。以事君済民為職。故在衆民之上。而食民之所貢。必須足済斯民。而後享斯民之養。不然則素餐而巳矣。凡享其養者。労其勤死其事而可也。苟受其養而廃其職。雖無譴責之者。豈可不恥于其心乎。柳子厚送薛存義序。亦見斯意爾。
書き下し
四民各職とする所有り。唯士為る者は、君に事へ民を済ふを以て職と為す。故に衆民の上に在りて、民の貢ぐ所を食む。必ず須らく斯の民を済ふに足りて、而る後に斯の民の養ひを享くべし。然らずんば則ち素餐のみ。凡そ其の養ひを享くる者は、其の勤めに労し其の事に死して可なり。苟も其の養ひを受けて其の職を廃すれば、之を譴責する者無しと雖も、豈に其の心に恥ぢざるべけんや。柳子厚の薛存義を送るの序にも、亦斯の意を見るのみ。
現代語訳
士農工商の四民には、それぞれ職分があります。ただ士である者は、君に仕え民を救うことを職分とします。だから多くの民の上に立ち、民が納めるものを食べているのです。必ずこの民を救うに足りて、初めてこの民の養いを受けるべきです。そうでなければ、ただ禄を食むだけの素餐にすぎません。およそその養いを受ける者は、その勤めに骨を折り、その仕事に命をかけるべきです。もしその養いを受けながら職務を怠るなら、責める者がいなくても、どうして心に恥じずにいられましょうか。柳子厚の「薛存義を送る序」にも、この意味が見えます。
解説
柳宗元の「送薛存義序」は、地方官は民に雇われた者であり、民の税で養われながら職務を怠れば、雇い人が主人の物を盗むのと同じだと説いた文です。益軒は福岡藩に仕えた儒者で、武士が年貢で養われていることの意味を正面から問います。素餐は『詩経』魏風・伐檀に見える語で、働かずに禄を食むことです。今でいえば、給料や公金で働く人が、その源に誰の労働があるかを思い起こすことに通じます。誰にも咎められなくても自分の心に恥じる、という職業倫理の原点を示す一条です。
この章句が説くこと
職分士素餐恥民
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