慎思録 / 巻之五
衆人居富多忘貧。須節儉而勿奢侈。居貴多忘故舊。當存卹而不踈。歲長多忘父母。宜終身思慕。病愈多忘愼。須安樂常思病苦時。凡自修者。當以忘初爲戒。
新字:衆人居富多忘貧。須節倹而勿奢侈。居貴多忘故旧。当存卹而不疎。歳長多忘父母。宜終身思慕。病愈多忘慎。須安楽常思病苦時。凡自修者。当以忘初為戒。
書き下し
衆人は富に居れば多く貧を忘る。須らく節倹して奢侈すること勿かるべし。貴に居れば多く故旧を忘る。当に存恤して疎んぜざるべし。歳長ずれば多く父母を忘る。宜しく終身思慕すべし。病愈ゆれば多く慎みを忘る。須らく安楽にして常に病苦の時を思ふべし。凡そ自ら修むる者は、当に初めを忘るるを以て戒めと為すべし。
現代語訳
多くの人は、富んでいると貧しかった時を忘れがちです。倹約して贅沢をしてはなりません。高い地位にいると昔なじみを忘れがちです。いたわって疎んじてはなりません。年をとると父母のことを忘れがちです。一生慕い続けるべきです。病気が治ると慎みを忘れがちです。安らかな時にも、いつも病に苦しんだ時を思うべきです。およそ自分を修める者は、初めを忘れることを戒めとすべきです。
解説
益軒は、人が境遇の変化とともに忘れがちな四つのことを挙げます。富んで貧を忘れ、貴くなって旧友を忘れ、年を重ねて父母を忘れ、病が癒えて慎みを忘れる。いずれも今の安楽が、以前の苦労や人の恩の上にあることを見失う心です。病後の養生を説くのは『養生訓』の著者らしいところです。昇進したとき、事業が軌道に乗ったとき、体調が回復したとき、それぞれの初めの気持ちを思い返す。この一条は、自分を点検する具体的な項目表として使えます。
この章句が説くこと
初心倹約故旧孝慎み
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