慎思録 / 巻之五
行遊之處。常避繁華熱鬧之境。而可尋幽閑澹淡之地。葢靑山流水。最多佳趣。然是可與同志語。不可爲俗士論。陽不生於陽。而生於陰之盛。陰不生於陰。而生於陽之盛。如冬至生一陽。夏至生一陰。是也。治不生於治。而生於亂。亂不生於亂。而生於治。故盛極則衰。是盛衰相根之理。是以君子方其盛也。知其倚伏之理。而愼其微矣。所以无亢龍之悔也。
新字:行遊之処。常避繁華熱鬧之境。而可尋幽閑澹淡之地。葢青山流水。最多佳趣。然是可与同志語。不可為俗士論。陽不生於陽。而生於陰之盛。陰不生於陰。而生於陽之盛。如冬至生一陽。夏至生一陰。是也。治不生於治。而生於乱。乱不生於乱。而生於治。故盛極則衰。是盛衰相根之理。是以君子方其盛也。知其倚伏之理。而慎其微矣。所以无亢竜之悔也。
書き下し
行遊の処は、常に繁華熱鬧の境を避けて、幽閑澹淡の地を尋ぬべし。蓋し青山流水、最も佳趣多し。然れども是れ同志と語るべく、俗士の為に論ずべからず。陽は陽に生ぜずして、陰の盛んなるに生ず。陰は陰に生ぜずして、陽の盛んなるに生ず。冬至に一陽を生じ、夏至に一陰を生ずるが如き、是れなり。治は治に生ぜずして、乱に生ず。乱は乱に生ぜずして、治に生ず。故に盛極まれば則ち衰ふ。是れ盛衰相根ざすの理なり。是を以て君子は其の盛んなるに方りて、其の倚伏の理を知りて、其の微を慎む。亢龍の悔い無き所以なり。
現代語訳
出歩いて遊ぶところは、いつもにぎやかで騒がしい所を避けて、奥ゆかしく静かで淡泊な土地を訪ねるのがよいのです。青い山と流れる水には、最もよい趣が多くあります。しかしこれは志を同じくする人と語るべきことで、俗な人に向かって論じるべきことではありません。陽は陽から生まれるのではなく、陰が盛んな時に生まれます。陰は陰から生まれるのではなく、陽が盛んな時に生まれます。冬至に一つの陽が生じ、夏至に一つの陰が生じるのがそれです。治は治から生まれるのではなく乱から生まれ、乱は乱から生まれるのではなく治から生まれます。だから盛んさが極まれば衰えるのです。これが盛と衰とが互いに根ざし合う理です。そこで君子は盛んな時にこそ、禍福が互いに寄りかかり潜み合う理を知り、そのかすかな兆しを慎みます。これが「亢龍の悔い」がない理由です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『慎思録』巻之二天地造化の道、陰陽変化の理に常有り。是を以て進退消長存亡の数に限り有り。人物の其の間に生ずるや、其の定数を逃るること能はず。是を以て盛んなる者は衰へざること能はず、生ずる者は死せざること能はず。此れ天地の常理なり。君子は其の常理に安んず。故に傾覆流離すと雖も憂苦せず。衰老に至ると雖も嗟嘆せず。死亡に臨むと雖も悲哀せず。夫の天命を楽しみて疑はざる者なり。
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『慎思録』巻之三鳥の飛ばんと欲する者は必ず伏す。獣の搏たんと欲する者は必ず屈す。尺蠖の伸びんと欲する者も亦必ず屈す。人身夜裏熟睡すれば、則ち来日力有り。天地の運、冬間の寒気厳粛なれば、則ち伏蔵する陽気限り無く、来春に到りて、陽気大いに発暢し、生物繁茂するが如し。冬間温煖にして陽気発洩すれば、則ち来春発生の時に到りて、精神薄弱なるが如し。所謂翕聚せざれば、則ち発散する能はざるなり。是を以て君子は平日無事の時、精力を静養して、以て有用の発動を待つ。潜龍の初九に在るは、飛龍天に在るを致す所以なるが如し。
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『慎思録』巻之一天地は大寒大暑、大風大雨、迅雷地震、大変の時に方ると雖も、其の太和を失はず。是を以て万物を発育して、生理息まず。人は艱難多事の時、窮困危変の時に方り、横逆払戻の事に遇ふと雖も、従容自得、随処にして之を楽しむの工夫を忘るべからず。中庸の所謂君子は其の位に素して行ひ、入るとして自得せざること無しといふ者なり。苟も此くの如くならざれば、則ち天地の和気と相似ず。
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『慎思録』巻之六山水風月の閑淡、芳草嘉木の生意は、是れ君子の愛観する所なり。之に対すれば則ち其の心胸を開濶にし、其の情性を清和にす。以て道心を感興し、鄙吝を蕩滌すべし。是れ天機に触発するの益なり。学者は文を学び力行して、余力有らば、則ち逍遥遊観すべし。進益有るに庶からん。若し良辰美景に逢はば、則ち空しく放過すべからず。
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『慎思録』巻之二天下の理は、一定にして偏なれば、則ち恒なること能はず。唯だ時に随ひて変易するは、乃ち常道なり。四時の変化して推移するが如き、是れなり。人事を以て之を言はば、譬へば遠征の人、日々行々を以て勤めと為す。然り而して昼夜休まざれば、則ち労憊して遠きに達すること能はず。故に昼往き夜休み、昼往くの中にも、亦た時有りて休めば、則ち日々行々すと雖も、然れども労憊して行くこと能はざるの患ひ無し。是れ一張一弛の道にして、恒にして究まらざる所以なり。
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『慎思録』巻之三陰陽は物として在らざる無し。一気の流行を陽と為し、凝聚を陰と為す。長進を陽と為し、消退を陰と為す。春夏を陽と為し、秋冬を陰と為す。温熱を陽と為し、涼寒を陰と為す。生長を陽と為し、収蔵を陰と為す。動を陽と為し、静を陰と為す。木火を陽と為し、金水を陰と為す。昼を陽と為し、夜を陰と為す。明を陽と為し、暗を陰と為す。仁礼を陽と為し、義智を陰と為す。鬼を陰と為し、人を陽と為す。鬼を陰と為し、神を陽と為す。淑慝の分を以て之を言へば、善を陽と為し、悪を陰と為す。君子を陽と為し、小人を陰と為す。中国を陽と為し、夷狄を陰と為す。