慎思録 / 巻之二
天下之理。一定而偏。則不能恒矣。唯隨時變易。乃常道也。如四時之變化而推移。是也。以人事言之。譬如遠征人。以日日行行爲勤。然而晝夜不休。則勞憊而不能達于遠。故晝往夜休。晝往之中。亦有時而休。則雖日日行行。然無勞憊而不能行之患。是一張一弛之道。所以恒而不究也。
新字:天下之理。一定而偏。則不能恒矣。唯随時変易。乃常道也。如四時之変化而推移。是也。以人事言之。譬如遠征人。以日日行行為勤。然而昼夜不休。則労憊而不能達于遠。故昼往夜休。昼往之中。亦有時而休。則雖日日行行。然無労憊而不能行之患。是一張一弛之道。所以恒而不究也。
書き下し
天下の理は、一定にして偏なれば、則ち恒なること能はず。唯だ時に随ひて変易するは、乃ち常道なり。四時の変化して推移するが如き、是れなり。人事を以て之を言はば、譬へば遠征の人、日々行々を以て勤めと為す。然り而して昼夜休まざれば、則ち労憊して遠きに達すること能はず。故に昼往き夜休み、昼往くの中にも、亦た時有りて休めば、則ち日々行々すと雖も、然れども労憊して行くこと能はざるの患ひ無し。是れ一張一弛の道にして、恒にして究まらざる所以なり。
現代語訳
天下の理は、一つに定まって偏っていれば、長く続くことはできません。ただ時に従って変わるのが、常の道です。四季が変化して移り変わるのが、それです。人の事で言えば、たとえば遠くへ旅する人は、毎日歩き続けることを務めとします。しかし昼も夜も休まなければ、疲れ果てて遠くには行き着けません。だから昼に進み夜に休み、昼に進む間にも時々休めば、毎日歩き続けても、疲れ果てて歩けなくなる心配はありません。これが一張一弛(張りつめたりゆるめたり)の道であり、長く続いて尽きないわけです。
解説
張りつめるだけでなく、ゆるめることがあってこそ長く続く、という条です。「一張一弛は文武の道なり」は『礼記』雑記下の孔子の言葉で、弓の弦を張りゆるめることにたとえたものです。『易経』恒卦の「恒は久し」の考えとも通じます。旅のたとえは、各地を旅した益軒の実感でしょう。休まずに働き続けて燃え尽きる働き方は、今も多くの人が陥る罠です。休むことを怠けではなく、続けるための技術として捉え直させてくれます。
この章句が説くこと
張弛恒休養養生変易
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