慎思録 / 巻之五
人之禀性各異。故其好惡亦不同。是以處世接人也。有好我者。有惡我者。有譽我者。有毀我者。我所惡而有人好之者。我所好而有人惡之者。是乃人之所以有遇與不遇。而君上之愛惡。與臣下之榮辱。皆所繫於此也。吾之愛惡於人。亦然。其有偏僻者。不可不省察而正之。
新字:人之禀性各異。故其好悪亦不同。是以処世接人也。有好我者。有悪我者。有誉我者。有毀我者。我所悪而有人好之者。我所好而有人悪之者。是乃人之所以有遇与不遇。而君上之愛悪。与臣下之栄辱。皆所繋於此也。吾之愛悪於人。亦然。其有偏僻者。不可不省察而正之。
書き下し
人の稟性各異なる。故に其の好悪も亦同じからず。是を以て世に処り人に接するや、我を好む者有り、我を悪む者有り、我を誉むる者有り、我を毀る者有り。我の悪む所にして人の之を好む者有り、我の好む所にして人の之を悪む者有り。是れ乃ち人の遇と不遇と有る所以にして、君上の愛悪と臣下の栄辱と、皆此に繋る所なり。吾の人に於ける愛悪も、亦然り。其の偏僻なる者有らば、省察して之を正さざるべからず。
現代語訳
人の生まれつきはそれぞれ異なります。だから好き嫌いもまた同じではありません。そのため世に処し人と接すると、自分を好む者もいれば、憎む者もいます。自分をほめる者もいれば、けなす者もいます。自分が嫌うものを人が好むこともあれば、自分が好むものを人が嫌うこともあります。これこそ人に運のよしあしがある理由であり、君主の好き嫌いと家臣の栄えや恥はすべてこれにかかっています。自分が人に対して抱く好き嫌いもまた同じです。偏ったところがあれば、よく省みて正さなければなりません。
解説
益軒は、人の評価や出世が、相手の好き嫌いという偶然に左右される現実を冷静に見つめます。上に立つ者の好悪がそのまま下の者の栄辱を決めるなら、上に立つ者ほど自分の好悪の偏りを省みなければなりません。『大学』伝八章も、好んで其の悪を知り、悪んで其の美を知る者は天下に鮮しと述べています。自分が誰かを苦手だと感じるとき、それは相手の欠点なのか、自分の偏りなのか。評価する立場にある人が、まず自分の好みを疑ってみることの大切さを教えてくれます。
この章句が説くこと
好悪省察偏り人事公平
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