慎思録 / 巻之五
天地之間。殺人最多者。有四件。刑兵歲病也。省刑罸明曲直。則無寃死。禁遏亂源。則無兵死。方歲之凶。周卹窮民。則無餓死。擇醫濟病。則無枉死。從政者。不可不知。
新字:天地之間。殺人最多者。有四件。刑兵歳病也。省刑罰明曲直。則無冤死。禁遏乱源。則無兵死。方歳之凶。周卹窮民。則無餓死。択医済病。則無枉死。従政者。不可不知。
書き下し
天地の間、人を殺すこと最も多き者、四件有り。刑・兵・歳・病なり。刑罰を省き曲直を明らかにすれば、則ち寃死無し。乱源を禁遏すれば、則ち兵死無し。歳の凶なるに方りて、窮民を周恤すれば、則ち餓死無し。医を択びて病を済へば、則ち枉死無し。政に従ふ者、知らざるべからず。
現代語訳
天地の間で人を最も多く殺すものが四つあります。刑罰・戦争・凶作・病気です。刑罰を減らし是非を明らかにすれば、無実の罪で死ぬ者はいなくなります。乱の源を抑え止めれば、戦で死ぬ者はいなくなります。凶作の年に困窮した民を救えば、飢え死にする者はいなくなります。医者を選んで病人を救えば、不当に死ぬ者はいなくなります。政治に携わる者は、このことを知らなければなりません。
解説
益軒は、民の命を奪う四つの原因を挙げ、それぞれに為政者の打つべき手を対応させます。刑は公正な裁き、兵は乱の芽を摘むこと、凶年は救済、病は良医の確保です。益軒自身が『養生訓』を著し医学にも通じていたことを思えば、「医を択ぶ」を政治の課題に数えるのは自然です。抽象的な徳目ではなく、人が実際に死ぬ原因から政治の優先順位を組み立てる、きわめて具体的な発想です。組織の運営でも、人を傷つけ失わせる原因を数え上げ、一つずつ手当てしていく姿勢に通じます。
この章句が説くこと
政治民刑仁政救済
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