五常訓 / 巻之五・信
一信は身を修るのみならず、人を治め、國をたもつの要なり。信なければ、人したがはず。むかし子貢、孔子に國の政をとふ。孔子曰、食を足し、兵を足し、民信之。此意は、國ををさむるに、第一には、食のやしなひ無ければ、民命つゞかず。第二、武のそなへなければ、國土の守なく、敵にあなどり攻められて、民をやすんじ、國を守る事あたはず。第三、上の心に信なければ、民たる者、上を信ぜず。下知法度を出して信なければ、法やぶれて行はれず。民上を信ぜざれば、上につかふるに、眞實の道なし。凡此食と兵と信と、三の者は、一もなくてかなはず。子貢又問うて曰必やむことを得ずして、此三の內、一をすてば、何をか先にすつべきや。孔子こたへて曰、兵をすつべし。
新字:一信は身を修るのみならず、人を治め、国をたもつの要なり。信なければ、人したがはず。むかし子貢、孔子に国の政をとふ。孔子曰、食を足し、兵を足し、民信之。此意は、国ををさむるに、第一には、食のやしなひ無ければ、民命つゞかず。第二、武のそなへなければ、国土の守なく、敵にあなどり攻められて、民をやすんじ、国を守る事あたはず。第三、上の心に信なければ、民たる者、上を信ぜず。下知法度を出して信なければ、法やぶれて行はれず。民上を信ぜざれば、上につかふるに、真実の道なし。凡此食と兵と信と、三の者は、一もなくてかなはず。子貢又問うて曰必やむことを得ずして、此三の内、一をすてば、何をか先にすつべきや。孔子こたへて曰、兵をすつべし。
書き下し
一信は身を修るのみならず、人を治め、国をたもつの要なり。信なければ、人したがはず。むかし子貢、孔子に国の政をとふ。孔子曰、食を足し、兵を足し、民信之。此意は、国ををさむるに、第一には、食のやしなひ無ければ、民命つづかず。第二、武のそなへなければ、国土の守なく、敵にあなどり攻められて、民をやすんじ、国を守る事あたはず。第三、上の心に信なければ、民たる者、上を信ぜず。下知法度を出して信なければ、法やぶれて行はれず。民上を信ぜざれば、上につかふるに、真実の道なし。凡此食と兵と信と、三の者は、一もなくてかなはず。子貢又問うて曰必やむことを得ずして、此三の内、一をすてば、何をか先にすつべきや。孔子こたへて曰、兵をすつべし。
現代語訳
信は身を修めるだけでなく、人を治め国を保つ要です。信がなければ人は従いません。昔、子貢が孔子に国の政治を問いました。孔子は「食を足らし、兵を足らし、民がこれを信じるようにする」と言われました。その意味は、国を治めるのに、第一には食べ物の養いがなければ民の命は続きません。第二に武の備えがなければ、国土の守りがなく、敵に侮られ攻められて、民を安んじ国を守ることはできません。第三に、上の心に信がなければ、民は上を信じません。命令や法度を出しても信がなければ、法は破れて行われません。民が上を信じなければ、上に仕えるのに真実の道がありません。およそこの食と兵と信の三つは、一つも欠かせません。子貢がまた問うて「どうしてもやむを得ず、この三つのうち一つを捨てるなら、何を先に捨てるべきでしょうか」と言いました。孔子は答えて「兵を捨てよ」と言われました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『五常訓』巻之五・信如何となれば、食と信と有之、兵粮たくさんにて、士卒万民上に思ひつかば、兵なくとも、国を守ること堅固なるべし。子貢又問へり。食と信との二の内、やむことを得ずして、一をすてば、何をか先にすつべき。答へて曰、食をすつべし。食なければ民死す。然れども、信なくて生きんよりは、城を枕にして、うゑ死し、討死したらんこそ、本意なるべけれ。古より、死は人の常なれば、うゑて死すとも力およばず。人もし信を失へば、人道たたず。かひなき命を生たりとも、人となるの理亡びなば、恥づべきの甚しきなれば、道ありて死したるには、遥かに劣るべし。もし信なくて、士卒万民上にしたがはず、思ひつかずば、兵糧たくさんにして、莫大の軍勢ありとも、用にたつべからず。
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『慎思録』巻之五天地の間、人を殺すこと最も多き者、四件有り。刑・兵・歳・病なり。刑罰を省き曲直を明らかにすれば、則ち寃死無し。乱源を禁遏すれば、則ち兵死無し。歳の凶なるに方りて、窮民を周恤すれば、則ち餓死無し。医を択びて病を済へば、則ち枉死無し。政に従ふ者、知らざるべからず。
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『君子訓』巻之中一民豊なれば奢りて法に背くといふ人あり。是政を為る道を知らざるなり。民貧しければ盗む心を生ず。民を憐みて衣食乏しからず、困究せしめざるは、盗を止むる基なり。法度を明かにして、民に分限を守らしむれば、豊なれども奢る事なし。如斯にして民其分を踰えて奢り怠り、或は盗する者あらば、罪に行ひて許すべからず。民は愚なる者なれば、まかせ置きては治るべきやうなし。衣食不足なきやうにして、其奢怠を戒め、罪に陥らしめぬは、政をするの道なり。
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論語・顔淵篇子貢、政を問う。子曰く、「食を足し、兵を足し、民之を信ず。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」曰く、「兵を去らん。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」曰く、「食を去らん。古より皆死有り、民信無くんば立たず。」
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『五常訓』巻之五・信是子貢にこたへ給へる意なるべし。又司馬温公の曰、信者人君の大宝なり。国は民に保ち、民は信にたもつ。信にあらざれば、民をつかふ事なく、民にあらざれば、国を守る事なし。故に古の王者は、四海を欺かずと云へり。夫国は民を以てたもつ。民したがはざれば、国ありても保ちがたし。民は信を以てたもつ。上より民を欺きいつはりて、信なければ、民上を信ぜずして、思ひつかず。民の心をたもちがたし。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一民の司となる人、我一人のたのしみを好むべからず。民と共に楽しむべし。是まことの楽なり。天下の人は、たかきもひききも、皆我が兄弟の理ありて、本は一体なることを知り、我が心を以て人の心をおしはかり、聊人のうれひ苦む事をなすべからず。貧窮にしてうゑこごゆるもの、病者、かたはなる者、世をわたりかねて憂ひくるしめる鰥寡孤独の類をば、我が力を以て救ふべし。鰥寡孤独とは、老いて妻なきを鰥と云ひ、老いて夫なきを寡といひ、いとけなうして父なきを孤と云ひ、老いて子なきを独と云ふ。此四の者は、世の中の困窮せる民にて、人のめぐみを受くべきたよりな飢ゑこごえする人なり、いとあはれむべし。いにしへの聖人の政は、まづかやうのふびんなる民は、早くめぐみ給ふ。
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