慎思録 / 巻之五
兵有正有奇。凡用兵之道。以正合以奇勝。故治兵以正。求勝以奇。二者不可偏廢。修整於軍旅。貴正兵。正兵者。用節制之謂。分數辨別。法律嚴明。是也。制權應變。貴奇兵。奇兵者。用計策之謂。出于常規之外。而不拘乎法律。故正兵者。用兵之經也。奇兵者。用兵之權也。
新字:兵有正有奇。凡用兵之道。以正合以奇勝。故治兵以正。求勝以奇。二者不可偏廃。修整於軍旅。貴正兵。正兵者。用節制之謂。分数弁別。法律厳明。是也。制権応変。貴奇兵。奇兵者。用計策之謂。出于常規之外。而不拘乎法律。故正兵者。用兵之経也。奇兵者。用兵之権也。
書き下し
兵に正有り奇有り。凡そ兵を用ふるの道は、正を以て合ひ、奇を以て勝つ。故に兵を治むるには正を以てし、勝ちを求むるには奇を以てす。二者偏廃すべからず。軍旅を修整するには、正兵を貴ぶ。正兵とは、節制を用ふるの謂なり。分数辨別し、法律厳明なる、是れなり。権を制し変に応ずるには、奇兵を貴ぶ。奇兵とは、計策を用ふるの謂なり。常規の外に出でて、法律に拘らず。故に正兵は、兵を用ふるの経なり。奇兵は、兵を用ふるの権なり。
現代語訳
兵には正と奇があります。およそ兵を用いる道は、正によって敵と向き合い、奇によって勝つのです。だから軍を治めるには正により、勝ちを求めるには奇によります。この二つはどちらかに偏って捨ててはなりません。軍隊を整えるには正兵を貴びます。正兵とは規律を用いることで、部隊の編成をはっきり分け、軍法を厳しく明らかにすることがそれです。状況に応じて臨機応変に対処するには奇兵を貴びます。奇兵とは計略を用いることで、決まった規則の外に出て、軍法にとらわれません。だから正兵は兵を用いる常の道であり、奇兵は兵を用いる臨機の道なのです。
解説
「正を以て合ひ、奇を以て勝つ」は『孫子』兵勢篇の有名な言葉です。益軒はこれを儒学の経と権の考えで整理します。経は常に守るべき原則、権は状況に応じた柔軟な判断です。「分数」も兵勢篇にある部隊編成の語です。規律ある組織という土台があってこそ、奇策が生きるのであり、奇策だけでは組織は崩れます。仕事でも、日々の業務を型どおり着実に回す力と、局面を打開する工夫の両方が要ります。どちらか一方に偏らないことが、組織を強くする要だと教えてくれます。
この章句が説くこと
兵法正奇経権規律孫子
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