慎思録 / 巻之五
林希逸取宋儒之意註老莊。然與老莊之本意不相合者多矣。日入而群動息。無事而闃寂。故夜氣必淸明。其所思繹易通精微。是夜間讀書之功。所以太倍于晝間也。爲學者。最須愛夜裏之力。勿昏睡而廢功。勿遊惰而失時。
新字:林希逸取宋儒之意註老荘。然与老荘之本意不相合者多矣。日入而群動息。無事而闃寂。故夜気必清明。其所思繹易通精微。是夜間読書之功。所以太倍于昼間也。為学者。最須愛夜裏之力。勿昏睡而廃功。勿遊惰而失時。
書き下し
林希逸、宋儒の意を取りて老荘に註す。然れども老荘の本意と相合はざる者多し。日入りて群動息み、事無くして闃寂たり。故に夜気必ず清明なり。其の思繹する所、精微に通じ易し。是れ夜間読書の功、晝間に太だ倍する所以なり。学を為す者、最も須らく夜裏の力を愛しむべし。昏睡して功を廃すること勿かれ、遊惰して時を失ふこと勿かれ。
現代語訳
林希逸は宋の儒者の考えを取り入れて老子・荘子に注をつけました。しかし老荘の本来の意味と合わないものが多いのです。日が沈むとあらゆる動きがやみ、用事もなく静まりかえります。だから夜の気は必ず澄みきっています。そのとき思いめぐらすことは、細かく深いところまで通じやすいのです。これが夜の読書の効果が昼よりはるかに倍する理由です。学問をする者は、夜の時間の力をとりわけ惜しまなければなりません。眠りこけて努力を怠ってはなりませんし、遊び怠けて時を失ってもなりません。
解説
前半は宋の林希逸の『老子口義』『荘子口義』についての短評で、前条の老荘論の続きです。林希逸の注は日本で広く読まれましたが、益軒は儒学の目で老荘を読んだために本意を外していると見ます。後半は夜の読書の勧めです。「夜気」は『孟子』告子上に出る語で、夜の静けさの中で回復する澄んだ心を指します。益軒は長寿を保ちながら晩年まで著述を続けた人で、時間の使い方に厳しい人でした。今なら、邪魔の入らない静かな時間を意識して確保し、深く考える仕事に充てることに通じます。
この章句が説くこと
読書夜気時間老荘学問
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