慎思録 / 巻之四
學者平日下手之工夫。或謂吾曹有放心。而不知求。是學者之通患。須以存心爲先。其存心者。其要在主一無適。或曰。學者先知天性之貴。而可入道。故尊德性樂義理之工夫爲先。或曰。常人私慾蔽固。故克己之功。最宜在先。愚謂。雖三者工夫如各殊。且畧有次第。本自一套工夫。故三者廢其一。則不可也。請試論之。學者用功下手之方。雖各以其切己者可爲先。要之只是在求仁而巳。求仁之功。存心知性。克己之外。亦何有他說乎。三說各有用處。欲欠一。亦不可得而巳矣。夫知德性之貴於物。故存心克己之功。須臾不可廢。是所以唐虞三代聖賢說誠敬。孔子說求仁。子思說戒愼恐懼。孟子說收放心立其大者。凡聖賢千言萬語。鈞是要求仁而巳。此外豈有他說乎。存心養性工夫之中。
新字:学者平日下手之工夫。或謂吾曹有放心。而不知求。是学者之通患。須以存心為先。其存心者。其要在主一無適。或曰。学者先知天性之貴。而可入道。故尊徳性楽義理之工夫為先。或曰。常人私慾蔽固。故克己之功。最宜在先。愚謂。雖三者工夫如各殊。且略有次第。本自一套工夫。故三者廃其一。則不可也。請試論之。学者用功下手之方。雖各以其切己者可為先。要之只是在求仁而巳。求仁之功。存心知性。克己之外。亦何有他説乎。三説各有用処。欲欠一。亦不可得而巳矣。夫知徳性之貴於物。故存心克己之功。須臾不可廃。是所以唐虞三代聖賢説誠敬。孔子説求仁。子思説戒慎恐懼。孟子説収放心立其大者。凡聖賢千言万語。鈞是要求仁而巳。此外豈有他説乎。存心養性工夫之中。
書き下し
学者平日下手の工夫、或いは謂ふ、吾曹放心有りて求むることを知らず。是れ学者の通患なり。須らく存心を以て先と為すべし。其の存心なる者は、其の要主一無適に在り、と。或いは曰く、学者先づ天性の貴きを知りて、道に入るべし。故に徳性を尊び義理を楽しむの工夫を先と為す、と。或いは曰く、常人は私慾蔽固す。故に克己の功、最も宜しく先に在るべし、と。愚謂へらく、三者の工夫各殊なるが如く、且つ畧次第有りと雖も、本自ら一套の工夫なり。故に三者其の一を廃すれば、則ち不可なり。請ふ試みに之を論ぜん。学者功を用ひ手を下すの方は、各其の己に切なる者を以て先と為すべしと雖も、之を要するに只だ是れ仁を求むるに在るのみ。仁を求むるの功は、存心知性克己の外、亦た何の他説か有らん。三説各用処有り、一を欠かんと欲するも、亦た得べからざるのみ。夫れ徳性の物より貴きを知る。故に存心克己の功、須臾も廃すべからず。是れ唐虞三代の聖賢誠敬を説き、孔子求仁を説き、子思戒慎恐懼を説き、孟子放心を収め其の大なる者を立つることを説く所以なり。凡そ聖賢の千言万語、均しく是れ仁を求むることを要するのみ。此の外豈に他説有らんや。存心養性の工夫の中、
現代語訳
学ぶ者が日頃取りかかる工夫について、ある人は「われわれには放たれた心があるのに、それを求めることを知らない。これが学ぶ者の共通の病である。心を保つことを先にすべきだ。心を保つ要は、一つに集中してよそへ行かないことにある」と言います。またある人は「学ぶ者はまず天性の尊さを知ってから道に入るべきだ。だから徳性を尊び義理を楽しむ工夫を先にする」と言います。またある人は「普通の人は私欲に覆われて頑なである。だから己に克つ努力を最も先にすべきだ」と言います。私が思うに、三つの工夫はそれぞれ違うようで、おおよその順序もありますが、もともと一続きの工夫です。ですから三つのうち一つでも捨てればいけません。試みにこれを論じましょう。学ぶ者が努力し取りかかる方法は、それぞれ自分に切実なものを先にしてよいのですが、要するにただ仁を求めることにあるだけです。仁を求める努力は、心を保つこと、性を知ること、己に克つことのほかに、何の別の説がありましょう。三つの説にはそれぞれ用いどころがあり、一つを欠こうとしてもできません。徳性が物より尊いことを知るからこそ、心を保ち己に克つ努力は、わずかの間も捨ててはなりません。これが、堯舜や夏殷周三代の聖賢が誠と敬を説き、孔子が仁を求めることを説き、子思が戒め慎み恐れることを説き、孟子が放たれた心を収め、その大いなるものを立てることを説いたわけです。聖賢の千言万語は、ひとしく仁を求めることを要とするだけで、そのほかに別の説などありません。心を保ち性を養う工夫の中で、
解説
この章句が説くこと
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論語・雍也篇宰我問いて曰く、「仁者は之に告げて『井に仁有り』と曰うと雖も、其れ之に従わんか。」子曰く、「何為れぞ其れ然らんや。君子は逝かしむ可きも、陥る可からず。欺く可きも、罔う可からず。」
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論語・八佾篇子曰く、人にして仁ならずんば、礼を如(いかん)せん;人にして仁ならずんば、楽を如せん。
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論語・憲問篇「克・伐・怨・欲、行われずんば、以て仁と為す可きか。」子曰く、「以て難しと為す可し。仁は則ち吾知らざるなり。」
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論語・里仁篇子曰わく、不仁者は久しく約に処るべからず、長く楽に処るべからず。仁者は仁に安んじ、知者は仁を利とす。
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論語・里仁篇子曰わく、ただ仁者のみよく人を好み、よく人を悪む。
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論語・微子篇微子これを去り、箕子これに為に奴となり、比干諫めて死す。孔子曰わく、殷に三仁有り。