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慎思録 / 巻之四

人心本無不善。而衆人動爲外物被移。而不能不失其本心。是以富貴。則爲富貴被溺。而失之。貧賤。則爲貧賤所苦。而失之。好色。則爲好色所溺。而失之。有所好惡。則爲好惡所移。而失之。有所拂戾。則爲忿怨所移。而失之。遇災禍。則爲災禍所苦。而失之。故凡有心所累。則爲彼被移。而失其本心矣。是皆衆人之通病。不可不察識而悔悟也。

新字:人心本無不善。而衆人動為外物被移。而不能不失其本心。是以富貴。則為富貴被溺。而失之。貧賤。則為貧賤所苦。而失之。好色。則為好色所溺。而失之。有所好悪。則為好悪所移。而失之。有所払戻。則為忿怨所移。而失之。遇災禍。則為災禍所苦。而失之。故凡有心所累。則為彼被移。而失其本心矣。是皆衆人之通病。不可不察識而悔悟也。

書き下し

人心は本不善無し。而して衆人は動もすれば外物の為に移されて、其の本心を失はざること能はず。是を以て富貴なれば、則ち富貴の為に溺れて之を失ふ。貧賤なれば、則ち貧賤の為に苦しめられて之を失ふ。色を好めば、則ち好色の為に溺れて之を失ふ。好悪する所有れば、則ち好悪の為に移されて之を失ふ。払戻する所有れば、則ち忿怨の為に移されて之を失ふ。災禍に遇へば、則ち災禍の為に苦しめられて之を失ふ。故に凡そ心に累はさるる所有れば、則ち彼の為に移されて、其の本心を失ふ。是れ皆衆人の通病なり。察識して悔悟せざるべからず。

現代語訳

人の心にはもともと不善はありません。しかし普通の人はともすれば外のものに動かされて、その本心を失わずにはいられません。ですから富貴になれば、富貴におぼれて本心を失います。貧賤になれば、貧賤に苦しめられて本心を失います。色を好めば、色におぼれて本心を失います。好き嫌いがあれば、好き嫌いに動かされて本心を失います。思い通りにならないことがあれば、怒りと怨みに動かされて本心を失います。災いに遭えば、災いに苦しめられて本心を失います。およそ心が何かに煩わされれば、それに動かされて本心を失うのです。これはみな普通の人の共通の病です。よく見極めて悔い改めなければなりません。

解説

人の本心は善だが、外のものに動かされて失われると説き、その原因を富貴・貧賤・好色・好悪・思い通りにならないこと・災禍と具体的に列挙した条です。孟子の性善説と「放心を求む」(『孟子』告子上)の考えを背景に、恵まれた時も苦しい時も、どちらも本心を失うきっかけになると指摘する点が鋭いところです。成功して慢心するのも、失敗して自暴自棄になるのも同じ病だという見方は、自分がいま何に心を動かされているかを点検する手がかりになります。

この章句が説くこと

本心性善自省

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