慎思録 / 巻之四
世俗毎喜巧侫。而賤木訥。所謂樂春藻之繁華。而忘秋實之甘口也。古來小人易進而難退。善人難進而易退者。由此也。治財之道。其可禁者有三。貪吝費也。貪則所求非其分。所得非其有。是犯乎人也。吝則當其禮而不行。可與而不與。是私乎己也。費則放蕩而不節用。此取貧窮之道也。此三者。非治財之道也。
新字:世俗毎喜巧侫。而賤木訥。所謂楽春藻之繁華。而忘秋実之甘口也。古来小人易進而難退。善人難進而易退者。由此也。治財之道。其可禁者有三。貪吝費也。貪則所求非其分。所得非其有。是犯乎人也。吝則当其礼而不行。可与而不与。是私乎己也。費則放蕩而不節用。此取貧窮之道也。此三者。非治財之道也。
書き下し
世俗毎に巧佞を喜びて、木訥を賤しむ。所謂春藻の繁華を楽しみて、秋実の甘口を忘るるなり。古来小人は進み易くして退き難く、善人は進み難くして退き易き者は、此に由るなり。財を治むるの道、其の禁ずべき者三有り。貪と吝と費となり。貪は則ち求むる所其の分に非ず、得る所其の有に非ず。是れ人を犯すなり。吝は則ち其の礼に当たりて行はず、与ふべくして与へず。是れ己に私するなり。費は則ち放蕩して用を節せず。此れ貧窮を取るの道なり。此の三者は、財を治むるの道に非ざるなり。
現代語訳
世間ではいつも口先のうまい者を喜び、飾り気なく口下手な者を卑しみます。いわゆる、春の草花の華やかさを楽しんで、秋の実りの甘さを忘れるということです。昔から小人は出世しやすく退けにくく、善人は出世しにくく退きやすいのは、このためです。財を治める道で禁ずべきものが三つあります。貪りと、けちと、浪費です。貪りとは、求めるものが自分の分でなく、得るものが自分のものでないことで、人を侵すことです。けちとは、礼として行うべきときに行わず、与えるべきときに与えないことで、自分だけを私することです。浪費とは、放縦で節約しないことで、貧窮を招く道です。この三つは、財を治める道ではありません。
解説
二つの短い条がつながった単位です。前半は、世間は口のうまい者を好み、口下手な誠実さを軽んじると嘆き、春の花に浮かれて秋の実りを忘れるとたとえます。「巧言令色鮮なし仁」「剛毅木訥仁に近し」という『論語』の価値観が背景にあります。後半は財の扱い方で、貪り・けち・浪費の三つを禁じます。家計や藩財政にも通じた益軒らしい、具体的で実践的な整理です。人を評価するときに話のうまさに惑わされないこと、お金は取りすぎず惜しみすぎず使いすぎないことは、今も変わらない生活の知恵です。
この章句が説くこと
財節倹木訥人物吝
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