慎思録 / 巻之四
井田之法。雖於中國廣濶之地。後世有其勢難行之論。况於外夷壤地褊少乎。凡爲治之道。只在發政施仁。敎稼穡嚴法制。薄稅歛省力役。興學校明倫理耳。不要泥于古制。今不知其土宜。而拘拘于古制者。以中華古昔井田法爲可行于外夷。是陋儒之見。不諳世變。偏僻之說。不知時宜者。可謂智乎。
新字:井田之法。雖於中国広濶之地。後世有其勢難行之論。況於外夷壤地褊少乎。凡為治之道。只在発政施仁。教稼穡厳法制。薄税歛省力役。興学校明倫理耳。不要泥于古制。今不知其土宜。而拘拘于古制者。以中華古昔井田法為可行于外夷。是陋儒之見。不諳世変。偏僻之説。不知時宜者。可謂智乎。
書き下し
井田の法は、中国広闊の地に於てすら、後世其の勢ひ行ひ難きの論有り。況や外夷の壌地褊少なるに於てをや。凡そ治を為すの道は、只だ政を発し仁を施すに在り。稼穡を教へ法制を厳にし、税斂を薄くし力役を省き、学校を興し倫理を明らかにするのみ。古制に泥むことを要せず。今其の土宜を知らずして古制に拘拘たる者、中華古昔の井田の法を以て外夷に行ふべしと為す。是れ陋儒の見にして、世変を諳んぜず、偏僻の説にして、時宜を知らざる者なり。智と謂ふべけんや。
現代語訳
井田の法は、中国の広々とした土地でさえ、後世には実行が難しいという議論があります。まして中国の外の国で土地が狭い所ではなおさらです。およそ政治の道は、ただ良い政令を出し仁を施すことにあります。農業を教え、法制を厳しくし、税を軽くし、労役を減らし、学校を興して人の道を明らかにするだけです。古い制度にこだわる必要はありません。今、その土地の事情も知らずに古い制度にしがみつく者は、中国の昔の井田の法を中国の外の国でも行えると考えています。これは狭い儒者の見方で、世の移り変わりを知らない偏った説であり、時宜を知らない者です。知恵があると言えるでしょうか。
解説
井田法は『孟子』滕文公上に説かれる古代中国の土地制度で、儒者の理想とされました。益軒は、広い中国でさえ後世には実行困難とされたものを、狭い日本に移そうとするのは時勢と風土を知らない狭い儒者の考えだと批判します。政治の本質は、農業を勧め税を軽くし教育を興すといった仁政にあり、制度の形ではないというのです。理想のモデルを状況を考えずに丸ごと導入する危うさは、他社の成功事例を取り入れるときにも当てはまる教訓です。
この章句が説くこと
治仁時宜制度政治
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