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慎思録 / 巻之三

處世。寧傷于拙。莫傷于巧。爲禮。寧傷于儉。莫傷于奢。爲學。寧傷于隘。莫傷于雜。世儒以攝養保生者。爲術者貪生之事。只以冬裘夏葛飢食渴飮。爲養生之道止于此。然而死生亦大矣。吾身所禀于天地父母者。不可不保重。然則保養守身之術。亦不可不學。何可爲術者之事廢之乎。大凡人事皆有術。獨養生。豈可無術乎。

新字:処世。寧傷于拙。莫傷于巧。為礼。寧傷于倹。莫傷于奢。為学。寧傷于隘。莫傷于雑。世儒以摂養保生者。為術者貪生之事。只以冬裘夏葛飢食渇飲。為養生之道止于此。然而死生亦大矣。吾身所禀于天地父母者。不可不保重。然則保養守身之術。亦不可不学。何可為術者之事廃之乎。大凡人事皆有術。独養生。豈可無術乎。

書き下し

世に処するは、寧ろ拙に傷るるも、巧に傷るること莫かれ。礼を為すは、寧ろ倹に傷るるも、奢に傷るること莫かれ。学を為すは、寧ろ隘に傷るるも、雑に傷るること莫かれ。世儒は摂養保生の者を以て、術者の生を貪るの事と為し、只冬裘夏葛飢食渇飲を以て、養生の道は此に止まると為す。然り而して死生も亦大なり。吾が身の天地父母に禀くる所の者は、保重せざるべからず。然らば則ち保養守身の術も、亦学ばざるべからず。何ぞ術者の事と為して之を廃すべけんや。大凡人事には皆術有り。独り養生のみ、豈に術無かるべけんや。

現代語訳

世渡りでは、むしろ不器用で損をしても、巧みさで損をしてはなりません。礼を行うには、むしろ質素すぎて損をしても、ぜいたくで損をしてはなりません。学問をするには、むしろ狭すぎて損をしても、雑多で損をしてはなりません。世の儒者は、体を養い命を保つことを術者が生をむさぼることだと考え、ただ冬は皮衣、夏は葛の衣を着て、飢えれば食べ渇けば飲むことだけを養生の道で、それ以上はないとしています。しかし生死もまた大事です。わが身は天地と父母から受けたもので、大切に保たなければなりません。そうであれば、体を養い身を守る術もまた学ばなければなりません。どうして術者の事だとして捨ててよいでしょうか。およそ人のすることにはみな術があります。養生だけにどうして術がないことがありましょう。

解説

前半は、拙と巧、倹と奢、隘と雑の三つの対で、過ちを犯すなら前者の側にせよと説きます。前出の「中を得られなければ厚きに過ぎよ」の考えと同じです。後半は、養生を道士や術者の事として軽んじる儒者を批判し、身は天地父母から受けたものだから養生の術も学ぶべきだと主張します。「身体髪膚之を父母に受く」という『孝経』の考えに通じます。この主張は、八十四歳で『養生訓』を著した益軒の立場そのものです。健康管理も学ぶべき技術だという考えは、今の私たちにもそのまま当てはまります。

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