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慎思録 / 巻之三

士大夫之妻若無子。則買妾如王公。雖后夫人有子。復多妾。所以廣繼嗣。續承于祖先也。若夫好好色愛嬖妾者。特是從一時之情欲而巳。然至有兒息。則大小大事。所以上繼先祖百世之業。下垂子孫百世之統也。可不重乎。須愼擇於良家之女。取性行端潔者。不要特取容色之美。如卑賤之子。姦凶之女。不要取之。凡富豪之家買妾。則必不擇於父家之良賤。與性行之善惡。唯容色之選求。是以母儀不正。而生子不肖者多矣。

新字:士大夫之妻若無子。則買妾如王公。雖后夫人有子。復多妾。所以広継嗣。続承于祖先也。若夫好好色愛嬖妾者。特是従一時之情欲而巳。然至有児息。則大小大事。所以上継先祖百世之業。下垂子孫百世之統也。可不重乎。須慎択於良家之女。取性行端潔者。不要特取容色之美。如卑賤之子。姦凶之女。不要取之。凡富豪之家買妾。則必不択於父家之良賤。与性行之善悪。唯容色之選求。是以母儀不正。而生子不肖者多矣。

書き下し

士大夫の妻若し子無ければ、則ち妾を買ふこと王公の如し。后夫人子有りと雖も、復た妾多きは、継嗣を広め、祖先を続承する所以なり。若し夫れ色を好み嬖妾を愛する者は、特に是れ一時の情欲に従ふのみ。然れども児息有るに至りては、則ち大小大の事なり。上は先祖百世の業を継ぎ、下は子孫百世の統を垂るる所以なり。重んぜざるべけんや。須らく慎みて良家の女を択び、性行端潔なる者を取るべし。特に容色の美を取ることを要せず。卑賤の子、姦凶の女の如きは、之を取ることを要せず。凡そ富豪の家の妾を買ふは、則ち必ず父家の良賤と、性行の善悪とを択ばず、唯容色を之れ選び求む。是を以て母儀正しからずして、子を生みて不肖なる者多し。

現代語訳

士大夫の妻にもし子がなければ、王侯と同じように妾を迎えます。后や夫人に子があっても、さらに多くの妾を持つのは、跡継ぎを広げ、祖先の家を受け継いでいくためです。色を好み気に入った妾を愛する者は、ただ一時の情欲に従っているだけです。しかし子が生まれれば、それはきわめて大きな事です。上は先祖百代の業を継ぎ、下は子孫百代の系統を伝えるものだからです。重んじないでいられましょうか。慎んで良家の娘を選び、性質と行いが正しく清らかな者を取るべきです。容姿の美しさだけで選ぶ必要はありません。身分の卑しい家の子や、心の邪な女は取ってはなりません。およそ富豪の家が妾を迎えるときは、きまって実家の良し悪しや本人の性質の善悪を選ばず、ただ容姿ばかりを選び求めます。それで母としての手本が正しくなく、生まれる子に不肖の者が多いのです。

解説

家の継承を重んじた江戸時代の武家社会を前提とした一条で、妾制度そのものは今日の価値観とは大きく異なります。益軒の主眼は、家を継ぐ子の母となる人は容色でなく人柄で選べ、という点にあります。母の人柄が子の育ちを左右するという考えは、益軒の『和俗童子訓』にも一貫しています。時代の制度として読むべき箇所ですが、見た目や一時の感情で大事な人選をしてはならず、長く影響する選択ほど人柄を重んじよ、という原則は、採用や協力者選びにも当てはまります。

この章句が説くこと

継嗣人柄選択母儀

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