慎思録 / 巻之三
張耒著四忌銘曰。著書忌早。處事忌擾。立朝忌巧。居室忌好。然未說所以忌之。篤信謂。著書早。則多誤而有悔。若流布於世間。則後來不可收拾。處事擾。則亂雜而無章。不能濟事。立朝巧。則非忠實之道或遇禍害。居室多嗜好。則傷財賊身。是所以忌之也。
新字:張耒著四忌銘曰。著書忌早。処事忌擾。立朝忌巧。居室忌好。然未説所以忌之。篤信謂。著書早。則多誤而有悔。若流布於世間。則後来不可収拾。処事擾。則乱雑而無章。不能済事。立朝巧。則非忠実之道或遇禍害。居室多嗜好。則傷財賊身。是所以忌之也。
書き下し
張来四忌銘を著して曰く、書を著すは早きを忌む。事に処するは擾るるを忌む。朝に立つは巧を忌む。室に居るは好を忌む、と。然れども未だ之を忌む所以を説かず。篤信謂ふ、書を著すこと早ければ、則ち誤多くして悔有り。若し世間に流布せば、則ち後来収拾すべからず。事に処すること擾るれば、則ち乱雑にして章無く、事を済すこと能はず。朝に立つこと巧なれば、則ち忠実の道に非ずして或いは禍害に遇ふ。室に居て嗜好多ければ、則ち財を傷り身を賊ふ。是れ之を忌む所以なり。
現代語訳
張来(張耒)は「四忌銘」を作って「書を著すには早すぎるのを忌む。事を処理するには乱れるのを忌む。朝廷に立つには巧みすぎるのを忌む。家にいるには好み事を忌む」と言いました。しかし、なぜ忌むのかは説いていません。私(篤信)が思うに、書を著すのが早ければ、誤りが多く後悔することになります。もし世間に広まってしまえば、後で取り返しがつきません。事を処理するのが乱れていれば、雑然として筋道がなく、事を成しとげられません。朝廷に立って巧みであれば、忠実の道ではなく、ときに災いに遭います。家にいて嗜好が多ければ、財を損ない身を害します。これが忌むべき理由です。
解説
北宋の文人張耒(字は文潜、蘇門四学士の一人)の「四忌銘」に益軒が理由を補った一条です。益軒自身は多くの著作を晩年に集中して刊行しており、「書を著すは早きを忌む」への注釈には実感がこもっています。『慎思録』も八十五歳でまとめた書です。未熟なまま発信すると取り返しがつかない、仕事は段取りを乱さない、組織では小手先に走らない、私生活では嗜好を増やさないという四つは、発信が容易な今の時代にも有効な戒めです。
この章句が説くこと
著書慎重処事忠実嗜好
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