慎思録 / 巻之三
經史子集之外。有小說之書。其爲書也。歷世衆士之所記。部帙孔多矣。不可枚擧。其中可者。固多矣。又可以備參考。不可盡廢棄。然其所記之中。街談巷議。猥細瑣碎之事。神怪奇異之說亦居多矣。如此者。於經史無所輔翼。所謂有之無所補。無之無所闕。乃無用之贅言也。學者須揀擇而去取之。俗情大率好奇異。厭平常。是以捨經史而不讀。特好小說之書者多矣。無益而有損。非正學也。
新字:経史子集之外。有小説之書。其為書也。歴世衆士之所記。部帙孔多矣。不可枚挙。其中可者。固多矣。又可以備参考。不可尽廃棄。然其所記之中。街談巷議。猥細瑣砕之事。神怪奇異之説亦居多矣。如此者。於経史無所輔翼。所謂有之無所補。無之無所闕。乃無用之贅言也。学者須揀択而去取之。俗情大率好奇異。厭平常。是以捨経史而不読。特好小説之書者多矣。無益而有損。非正学也。
書き下し
経史子集の外に、小説の書有り。其の書為るや、歴世衆士の記する所にして、部帙孔だ多し。枚挙すべからず。其の中可なる者、固より多し。又以て参考に備ふべく、尽く廃棄すべからず。然れども其の記する所の中、街談巷議、猥細瑣砕の事、神怪奇異の説も亦居多なり。此の如き者は、経史に於て輔翼する所無し。所謂之有りて補ふ所無く、之無くして闕く所無し。乃ち無用の贅言なり。学者須らく揀択して之を去取すべし。俗情大率奇異を好み、平常を厭ふ。是を以て経史を捨てて読まず、特に小説の書を好む者多し。益無くして損有り、正学に非ざるなり。
現代語訳
経・史・子・集の四部の外に、小説の書があります。それらは歴代の多くの人が書き記したもので、巻数はたいへん多く、数えきれません。その中によいものはもちろん多く、参考にもなるので、すべて捨ててよいわけではありません。しかし記された中には、町のうわさ話、つまらない細かい事、神怪や奇異の話も多く含まれています。こうしたものは経書や史書を助けることがありません。いわゆる「あっても補うところがなく、なくても欠けるところがない」もので、無用の余計な言葉です。学ぶ者は選り分けて取捨しなければなりません。世間の人情はおおむね奇異を好み、平常を嫌います。それで経史を捨てて読まず、小説の書ばかりを好む者が多いのです。益がなく損があり、正しい学問ではありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『墨子』兼愛下然らば即ち敢えて問う。今、此に平原廣野有り、甲を被り胄を嬰け、將に往きて戰わんとし、死生の權、未だ識る可からざるなり。又た君大夫の巴・越・齊・荆に逺使する有り、往來して及ぶや否や、未だ及ぶや否や、識る可からざるなり。然らば即ち將に家室を、親戚を奉承し、妻子を提挈して、之を寄託せんとするに、識らず、兼に於て是れ有らんか、别に於て是れ有らんか。哉ぞ以て其の此に於けるに當たりては、天下に愚夫愚婦無く、兼を非とするの人と雖も、必ず之を兼に寄託するに是れ有らんと為さん。言いて兼を非とし、擇びては即ち此れ言行の拂うなり。識らず、天下の士の、皆な兼を聞きて之を非とする所以の者は、其の故、何ぞや。
-
『学問のすゝめ』十六編・心事と働きと相当すべきの論・心事高尚ならざれば働きもまた高尚なるを得ず第一 人の働きには、大小軽重の別あり。芝居も人の働きなり、学問も人の働きなり、人力車を挽くも、蒸気船を運用するも、鍬をとりて農業するも、筆を揮いて著述するも、等しく人の働きなれども、役者たるを好まずして学者たるを勤め、車挽きの仲間に入らずして航海の術を学び、百姓の仕事を不満足なりとして著書の業に従事するがごときは、働きの大小軽重を弁別し、軽小を捨てて重大に従うものなり。人間の美事と言うべし。然りしこうして、そのこれを弁別せしむるものはなんぞや。本人の心なり、また志なり。かかる心志ある人を名づけて心事高尚なる人物と言う。ゆえにいわく、人の心事は高尚ならざるべからず、心事高尚ならざれば働きもまた高尚なるを得ざるなり。
-
孫子・行軍篇之を令するに文を以てし、之を斉うるに武を以てす。是を必取と謂う。
-
うひ山ぶみ・第八段然はあれども、まづかの学のしなじなは、他よりしひて、それをとはいひがたし、大抵みづから思ひよれる方にまかすべき也、
-
孟子・離婁章句下孟子曰く、「以て取る可く、以て取る無かる可し。取れば廉を傷つく。以て與う可く、以て與うる無かる可し。與うれば惠を傷つく。以て死す可く、以て死する無かる可し。死すれば勇を傷つく。」
-
『呻吟語』内篇・問學・學は擇ぶ有るを貴ぶ百家を羅ぬる者は、浩瀚の詞多し。一家に工みなる者は、獨詣の語有り。學者限り有るの目力を以て、其の律涯を竟へんと欲し、鹵莽の心思を以て、其の蘊奧を探らんと欲す。豈に難からずや。故に學は擇ぶ有るを貴ぶ。