慎思録 / 巻之一
讒愬流言之惑人也。是古今之通患。雖豪傑。或不能免。况其下者乎。若夫惑小人之言。而信讒發怒。疏骨肉斥忠良。不知孰甚焉。家之衰亡。國之危亂繫焉。不可不畏省而察識之。古諺曰。不癡不聾。不爲家翁。此乃智者之事。
新字:讒愬流言之惑人也。是古今之通患。雖豪傑。或不能免。況其下者乎。若夫惑小人之言。而信讒発怒。疏骨肉斥忠良。不知孰甚焉。家之衰亡。国之危乱繋焉。不可不畏省而察識之。古諺曰。不痴不聾。不為家翁。此乃智者之事。
書き下し
讒愬流言の人を惑はすや、是れ古今の通患なり。豪傑と雖も、或いは免るること能はず。況んや其の下なる者をや。夫の小人の言に惑ひて、讒を信じ怒りを発し、骨肉を疏んじ忠良を斥くるが若きは、不知孰れか焉より甚だしからん。家の衰亡、国の危乱、焉に繋る。畏れ省みて之を察識せざるべからず。古諺に曰く、痴ならず聾ならざれば、家翁と為らずと。此れ乃ち智者の事なり。
現代語訳
告げ口や流言が人を惑わすのは、昔も今も共通の悩みです。豪傑でも免れられないことがあります。ましてそれより下の者はなおさらです。小人の言葉に惑わされて、告げ口を信じて怒り、肉親を遠ざけ忠実で善良な人を退けるようなことは、これ以上の愚かさはありません。家の衰えや国の危機と乱れは、これにかかっています。畏れて省み、よく見極めなければなりません。古いことわざに「愚かなふりをせず、聞こえないふりをしなければ、一家の主人にはなれない」とあります。これこそ知恵ある者のすることです。
解説
讒言や流言に惑わされることの害と、それをかわす知恵を説いた条です。結びのことわざは、唐の代宗が、娘と夫の郭曖の夫婦げんかを訴えた郭子儀に語った言葉として『資治通鑑』に見えるものです。家の主は、細かな告げ口にいちいち反応せず、聞き流す度量が必要だという意味です。益軒は、これを知恵ある者の振る舞いと評価しています。職場でも家庭でも、人の噂や陰口に即座に動かず、確かめる余裕を持つことが、関係を壊さない秘訣になります。
この章句が説くこと
讒言流言智家度量
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