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慎思録 / 巻之一

素問曰。寒者熱之熱者寒之。微者逆之。甚者從之。又曰。逆者正治。從者反治。愚謂。病之微也。寒者熱之。熱者寒之。是微者逆之也。此爲正治。病之甚也。寒者涼之。熱者溫之。是甚者從之也。此爲反治。葢病之甚者正治。則杆格而不入。故從之而反治。竊謂。諫人之道。亦當如此。其蔽淺者。可以法語之言。是直諫也。猶病之微者。逆之而正治。其蔽深者。可以巽與之言。是諷諫也。猶病之甚者。從之而反治也。知二者不可妄施。而各從其宜。是可謂善道也。

新字:素問曰。寒者熱之熱者寒之。微者逆之。甚者従之。又曰。逆者正治。従者反治。愚謂。病之微也。寒者熱之。熱者寒之。是微者逆之也。此為正治。病之甚也。寒者涼之。熱者温之。是甚者従之也。此為反治。葢病之甚者正治。則杆格而不入。故従之而反治。窃謂。諫人之道。亦当如此。其蔽浅者。可以法語之言。是直諫也。猶病之微者。逆之而正治。其蔽深者。可以巽与之言。是諷諫也。猶病之甚者。従之而反治也。知二者不可妄施。而各従其宜。是可謂善道也。

書き下し

素問に曰く、寒なる者は之を熱し、熱なる者は之を寒す。微なる者は之に逆らひ、甚だしき者は之に従ふと。又曰く、逆らふ者は正治、従ふ者は反治と。愚謂へらく、病の微なるや、寒なる者は之を熱し、熱なる者は之を寒す。是れ微なる者は之に逆らふなり。此れを正治と為す。病の甚だしきや、寒なる者は之を涼しくし、熱なる者は之を温む。是れ甚だしき者は之に従ふなり。此れを反治と為す。蓋し病の甚だしき者は正治すれば、則ち杆格して入らず。故に之に従ひて反治す。窃かに謂ふ、人を諫むるの道も、亦当に此くの如くなるべし。其の蔽浅き者は、法語の言を以てすべし。是れ直諫なり。猶ほ病の微なる者、之に逆らひて正治するがごときなり。其の蔽深き者は、巽与の言を以てすべし。是れ諷諫なり。猶ほ病の甚だしき者、之に従ひて反治するがごときなり。二者の妄りに施すべからずして、各其の宜しきに従ふを知る。是れ善く道くと謂ふべきなり。

現代語訳

『素問』に「寒の病は温め、熱の病は冷やす。軽いものはそれに逆らい、重いものはそれに従う」とあり、また「逆らうのを正治、従うのを反治という」とあります。私が思うに、病が軽いときは、寒には温め、熱には冷やします。これが軽いものは逆らうということで、正治です。病が重いときは、寒には涼しいもので、熱には温かいもので治します。これが重いものは従うということで、反治です。病が重いときに正治をすれば、はねつけられて薬が入らないので、それに従って反治するのです。ひそかに思うに、人を諫める道もこのようであるべきです。迷いの浅い者には、正面から道理を説く言葉を用いるべきで、これが直諫です。軽い病に逆らって正治するのと同じです。迷いの深い者には、穏やかに相手に沿う言葉を用いるべきで、これが諷諫です。重い病に従って反治するのと同じです。二つをむやみに施してはならず、それぞれ適したものに従うことを知る。これがよく人を導くということです。

解説

医学の治療法を人を諫める方法に当てはめた、医に通じた益軒ならではの条です。『素問』は中国最古の医学書『黄帝内経』の一部で、引用は至真要大論篇の治療原則に当たります。「法語の言」「巽与の言」は『論語』子罕篇の言葉で、正面からの戒めと、穏やかに相手に沿う言葉を指します。迷いが深い人ほど正論ははね返されるので、まず相手に沿うところから入れという指摘は、部下への指導や家族への忠告にもそのまま役立つ実践的な知恵です。

この章句が説くこと

諫言素問忠告論語

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