慎思録 / 巻之一
朱子曰。君臣是義合。世之人便易得苟且。故於此說忠。是就不足處說。胡敬齋曰。朱子曰。忠是就臣所不足處言之。此記者之誤。葢忠是臣職當爲。篤信曰。父子兄弟是天合。故雖庸人。鮮有欺僞。君臣朋友是人合。故易至苟且自欺。故於此說忠說信。葢就所不足言之。且如夫婦。固欲和順。然其親密。易至褻狎。故於此說別。又就所不足言之。况君臣勢位懸隔。故其情意踈遠。踈遠者易至欺罔。是臣之常不足處。便是臣之所當盡也。苟不就所不足說。而徒謂忠是臣職當爲。則忠是實心。凡五品之道。皆不可闕。何可以之獨施事君乎。朱子所謂忠。是就臣所不足處言之說。未可以爲非。胡氏之說。反覺不是。
新字:朱子曰。君臣是義合。世之人便易得苟且。故於此説忠。是就不足処説。胡敬斎曰。朱子曰。忠是就臣所不足処言之。此記者之誤。葢忠是臣職当為。篤信曰。父子兄弟是天合。故雖庸人。鮮有欺偽。君臣朋友是人合。故易至苟且自欺。故於此説忠説信。葢就所不足言之。且如夫婦。固欲和順。然其親密。易至褻狎。故於此説別。又就所不足言之。況君臣勢位懸隔。故其情意疎遠。疎遠者易至欺罔。是臣之常不足処。便是臣之所当尽也。苟不就所不足説。而徒謂忠是臣職当為。則忠是実心。凡五品之道。皆不可闕。何可以之独施事君乎。朱子所謂忠。是就臣所不足処言之説。未可以為非。胡氏之説。反覚不是。
書き下し
朱子曰く、君臣は是れ義合なり。世の人便ち苟且を得易し。故に此に於て忠を説く。是れ足らざる処に就きて説くと。胡敬斎曰く、朱子曰く、忠は是れ臣の足らざる所の処に就きて之を言ふと。此れ記者の誤りなり。蓋し忠は是れ臣職の当に為すべきものなりと。篤信曰く、父子兄弟は是れ天合なり。故に庸人と雖も、欺偽有ること鮮し。君臣朋友は是れ人合なり。故に苟且自欺に至り易し。故に此に於て忠を説き信を説く。蓋し足らざる所に就きて之を言ふ。且つ夫婦の如きは、固より和順を欲す。然れども其の親密なる、褻狎に至り易し。故に此に於て別を説く。又足らざる所に就きて之を言ふ。況んや君臣は勢位懸隔す。故に其の情意疎遠なり。疎遠なる者は欺罔に至り易し。是れ臣の常に足らざる処にして、便ち是れ臣の当に尽くすべき所なり。苟も足らざる所に就きて説かずして、徒らに忠は是れ臣職の当に為すべきものと謂はば、則ち忠は是れ実心にして、凡そ五品の道、皆闕くべからず。何ぞ之を以て独り君に事ふるに施すべけんや。朱子の所謂忠は是れ臣の足らざる所の処に就きて之を言ふの説は、未だ以て非と為すべからず。胡氏の説、反りて是ならざるを覚ゆ。
現代語訳
朱子は「君臣は義によって結ばれた関係である。世の人はかりそめにいい加減になりやすい。だからここで忠を説くのだ。これは足りないところについて説いているのである」と言いました。胡敬斎は「朱子が、忠は臣の足りないところについて言ったものだと言うのは、記録した者の誤りである。忠は臣の職として当然なすべきものだ」と言いました。私篤信が思うに、父子や兄弟は天によって結ばれた関係なので、凡人でも欺き偽ることは少ないのです。君臣や朋友は人によって結ばれた関係なので、いい加減になり自分を欺くことに至りやすいのです。だからここで忠を説き信を説くのです。足りないところについて言っているのです。また夫婦のようなものは、もとより和やかで素直であることを望みますが、親密であるだけになれなれしくなりやすいので、ここで別を説きます。これも足りないところについて言っています。まして君臣は身分と地位がかけ離れているので、気持ちが疎遠になり、疎遠な者は欺くことに至りやすいのです。これが臣の常に足りないところであり、臣が尽くすべきところです。もし足りないところについて説くのでなく、ただ忠は臣の職として当然なすべきものだと言うなら、忠は真心であって、五つの人倫の道のどれにも欠かせないものですから、どうしてそれを君に仕えることだけに当てはめられましょう。朱子の、忠は臣の足りないところについて言ったものだという説は、誤りとは言えません。胡氏の説のほうがかえって正しくないと思われます。
解説
この章句が説くこと
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