慎思録 / 巻之一
大抵道之不明。因師道不立也。師道之不立。豈特師之非其人也哉。抑亦由弟子之不嚴於師也。讀書之序。須從上做下。不可從下做上。須從本到末。不可從末到本。葢從上做下者。先看古書。而後及近世也。從本到末者。先治經傳。而後及史子也。
新字:大抵道之不明。因師道不立也。師道之不立。豈特師之非其人也哉。抑亦由弟子之不厳於師也。読書之序。須従上做下。不可従下做上。須従本到末。不可従末到本。葢従上做下者。先看古書。而後及近世也。従本到末者。先治経伝。而後及史子也。
書き下し
大抵道の明らかならざるは、師道の立たざるに因るなり。師道の立たざるは、豈に特に師の其の人に非ざるのみならんや。抑も亦弟子の師に厳ならざるに由るなり。書を読むの序は、須らく上より下に做すべし。下より上に做すべからず。須らく本より末に到るべし。末より本に到るべからず。蓋し上より下に做すとは、先づ古書を看て、而る後に近世に及ぶなり。本より末に到るとは、先づ経伝を治めて、而る後に史子に及ぶなり。
現代語訳
おおよそ道が明らかでないのは、師の道が立っていないからです。師の道が立たないのは、師がふさわしい人でないからだけでしょうか。弟子が師を厳かに敬わないことにもよるのです。本を読む順序は、上から下へ進むべきで、下から上へ進んではいけません。本から末へ至るべきで、末から本へ至ってはいけません。上から下へ進むとは、まず古い書を読んで、その後に近世のものに及ぶことです。本から末へ至るとは、まず経書とその伝を修めて、その後に歴史書や諸子に及ぶことです。
解説
師弟の関係と読書の順序という二つの話題を並べた条です。師道が立たないのは師だけの責任ではなく、弟子が師を重んじないことにもよるという指摘は、『礼記』学記篇の「師厳にして然る後に道尊し」に通じます。読書の順序は、古典から近世へ、経書から史書や諸子へと定めています。益軒は幅広く読んだ人ですが、順序を踏むことを大切にしました。教わる側の姿勢が学びの質を決めることと、基本書から応用へ進む順序は、今の学びにも通じる心得です。
この章句が説くこと
師道読書順序経書学問
関連する章句
-
人物志・體別夫れ學は材を成す所以なり、疏は情を推す所以なり。偏材の性は、移轉すべからず。
-
言志四録・南洲手抄学之を古訓に稽へ、問之を師友に質すは、人皆之を知る。学必ず之を躬に学び、問必ず諸を心に問ふは、其れ幾人有らんか。
-
言志四録・南洲手抄朝にして食はずば、昼にして饑う。少うして学ばずば、壮にして惑ふ。饑うるは猶忍ぶ可し、惑ふは奈何ともす可からず。
-
歎異抄・第十二条経釈を読み学せざる輩、往生不定の由のこと。この条、すこぶる不足言の義と言いつべし。 他力真実の旨を明かせる諸の聖教は、本願を信じ念仏を申さば仏に成る、そのほか何の学問かは往生の要なるべきや。 まことにこの理に迷えらん人は、いかにもいかにも学問して、本願の旨を知るべきなり。 経釈を読み学すといえども、聖教の本意を心得ざる条、もっとも不便のことなり。
-
論語・為政篇子曰く、異端を攻むるは、斯れ害のみ。
-
説苑・建本子思曰わく、学は才を益す所以なり、礪は刃を致す所以なり。吾嘗て幽処して深く思うも、学の速やかなるに若かず。吾嘗て跂ちて望むも、高きに登りて博く見るに若かず。故に風に順いて呼べば、声疾しきを加えざれども聞く者衆し。丘に登りて招けば、臂長きを加えざれども見る者遠し。故に魚は水に乗り、鳥は風に乗り、草木は時に乗る。