慎思録 / 巻之一
敬者。戒愼恐懼之謂。非把捉强持之謂也。若操心强爲把捉。是爲助長之病。所謂拘捉。則難久也。其弊或流而爲色莊人者多矣。不可爲敬也。今執敬之人。動以敬爲束縛强持之事。非聖賢言敬之本旨。然一於和。而安排布置。不節之以禮者。亦去敬彌遠矣。
新字:敬者。戒慎恐懼之謂。非把捉強持之謂也。若操心強為把捉。是為助長之病。所謂拘捉。則難久也。其弊或流而為色荘人者多矣。不可為敬也。今執敬之人。動以敬為束縛強持之事。非聖賢言敬之本旨。然一於和。而安排布置。不節之以礼者。亦去敬弥遠矣。
書き下し
敬とは、戒慎恐懼の謂なり。把捉強持の謂に非ざるなり。若し心を操りて強ひて把捉を為さば、是れ助長の病と為す。所謂拘捉すれば、則ち久しくし難きなり。其の弊或いは流れて色荘の人と為る者多し。敬と為すべからざるなり。今の敬を執るの人、動もすれば敬を以て束縛強持の事と為す。聖賢の敬を言ふの本旨に非ず。然れども一に和して、安排布置し、之を節するに礼を以てせざる者も、亦敬を去ること弥遠し。
現代語訳
敬とは、戒め慎み恐れ懼れることを言います。心をつかんで無理に保つことを言うのではありません。もし心を操って無理につかもうとすれば、それは苗を引っ張って伸ばそうとする病です。いわゆる縛りつけるやり方では、長続きしません。その弊害は、流れて顔つきだけ荘重な人になる者が多いことです。それは敬とは言えません。今の敬を保とうとする人は、ともすると敬を束縛して無理に保つことだと思っています。これは聖賢が敬を説いた本来の趣旨ではありません。しかし、和やかさ一辺倒で、あれこれ段取りをつけても、礼で節度を与えない者もまた、敬からいよいよ遠ざかります。
解説
敬の工夫が窮屈な締めつけに陥ることと、逆に和に流れて締まりを失うことの両方を戒めた条です。「助長」は『孟子』公孫丑上篇の、苗を早く伸ばそうと引っ張って枯らした宋人の話に由来します。最後の一文は『論語』学而篇の有子の言葉「和を知りて和すれども、礼を以て之を節せざれば、亦行ふべからず」をふまえます。自分を律しようとして肩に力が入りすぎると続きません。緊張と緩みの間の、ほどよい慎みを探ることが大切だと教えてくれます。
この章句が説くこと
敬戒慎助長礼和
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