慎思録 / 巻之一
存養。是常時存養心性之工夫。貫動靜。自至靜無事之中。至應事接物之時。無時而不然。是全功也。省察。是動時之事。一念既生。七情方發之時。省察其善惡。而審其幾也。然且有克治之工夫。是省察之後。窒其所發之人欲。而克治之也。是亦爲動時之事。存養。譬如平時穀肉保養。省察。如問症診脉。而知病之所在也。克治。如以鍼灸藥石攻病也。三者皆存心養性之工夫。而省察克治。亦存養中緊要之工夫也。
新字:存養。是常時存養心性之工夫。貫動静。自至静無事之中。至応事接物之時。無時而不然。是全功也。省察。是動時之事。一念既生。七情方発之時。省察其善悪。而審其幾也。然且有克治之工夫。是省察之後。窒其所発之人欲。而克治之也。是亦為動時之事。存養。譬如平時穀肉保養。省察。如問症診脉。而知病之所在也。克治。如以鍼灸薬石攻病也。三者皆存心養性之工夫。而省察克治。亦存養中緊要之工夫也。
書き下し
存養は、是れ常時心性を存養するの工夫にして、動静を貫く。至静無事の中より、事に応じ物に接するの時に至るまで、時として然らざること無し。是れ全功なり。省察は、是れ動く時の事なり。一念既に生じ、七情方に発するの時、其の善悪を省察して、其の幾を審らかにするなり。然して且つ克治の工夫有り。是れ省察の後、其の発する所の人欲を窒ぎて、之を克治するなり。是れも亦動く時の事為り。存養は、譬へば平時の穀肉の保養の如し。省察は、症を問ひ脉を診て、病の所在を知るが如し。克治は、鍼灸薬石を以て病を攻むるが如きなり。三者は皆存心養性の工夫にして、省察克治も、亦存養の中の緊要の工夫なり。
現代語訳
存養は、いつも心と本性を保ち養う工夫で、動いている時も静かな時も貫きます。まったく静かで何事もない時から、物事に応じ人や物に接する時まで、そうでない時はありません。これは全体にわたる工夫です。省察は、心が動く時のことです。一つの思いが生じ、喜怒などの感情がちょうど起こる時に、その善悪を省みて察し、その兆しを見極めることです。さらに克治の工夫があります。これは省察の後、起こった人欲をふさいで、打ち勝ち治めることで、これも心が動く時のことです。存養はたとえば、普段穀物や肉で体を養うようなものです。省察は、症状を問い脈をみて、病のありかを知るようなものです。克治は、鍼や灸、薬で病を攻めるようなものです。三つはどれも心を保ち本性を養う工夫であり、省察と克治も、存養の中の大切な工夫です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
『呻吟語』外篇・天地・心は就ち是れ天なり心は就ち是れ天なり。心を欺くは便ち是れ天を欺くなり。心に事ふるは便ち是れ天に事ふるなり。更に須らく蒼蒼の上面に向かひて討むべからず。
-
『呻吟語』内篇・修身・心を大にし虛にし平にし潛め定む其の心を大にして天下の物を容れ、其の心を虛にして天下の善を受け、其の心を平にして天下の事を論じ、其の心を潛めて天下の理を觀、其の心を定めて天下の變に應ず。
-
『正法眼蔵随聞記』巻一示して云く、人は思ひ切て命をも棄て、身肉手足をも截ことは中々せくるゝなり、然あれば世間の事を思ふに、名利執心の為にも多くかくの如く思ひ切るなり、只依り来る時に、事に触れ物に随て、心品を調ふること難きなり、学者身命を捨ると思ふて、且くおしゝづめて、云ふべきことをも、修すべきことをも、道理に順ずるか順せざるかと案じて、道理に順せば云ひ、若くは行じもすべきなり、
-
『呻吟語』内篇・存心・心は天平のごとくならんことを要す心は天平のごとくならんことを要す。物を稱る時、物は忙しくして衡は忙しからず。物去る時、即ち懸空して此に在り。只だ恁く靜虛中正なれば、何等ぞ自在ならん。
-
『呻吟語』外篇・人情・心は二三を怕れ、情は一を怕る心は二三を怕れ、情は一を怕る。