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慎思録 / 巻之一

存養省察之工夫。爲心學之要務。存養二字。二程子取於孟子存心養性之言。以爲學者平日動靜之際。保護於心性之工夫。省察二字。出乎楚辭九章。朱子取之。以爲情意初動時。辨別理欲之工夫。前此經傳之中。雖既有此意。尙未有此名。後世有此名者。葢自程朱而始。是亦有功于聖學也。學者不可不知其所以立名之意。與其所以用功之道。中庸所謂戒愼恐懼者。朱子以爲存養之工夫。愼獨者。朱子以爲省察之工夫。都是道也者不可須臾離之事也。

新字:存養省察之工夫。為心学之要務。存養二字。二程子取於孟子存心養性之言。以為学者平日動静之際。保護於心性之工夫。省察二字。出乎楚辞九章。朱子取之。以為情意初動時。弁別理欲之工夫。前此経伝之中。雖既有此意。尚未有此名。後世有此名者。葢自程朱而始。是亦有功于聖学也。学者不可不知其所以立名之意。与其所以用功之道。中庸所謂戒慎恐懼者。朱子以為存養之工夫。慎独者。朱子以為省察之工夫。都是道也者不可須臾離之事也。

書き下し

存養省察の工夫は、心学の要務為り。存養の二字は、二程子孟子の存心養性の言に取りて、以て学者平日動静の際、心性を保護するの工夫と為す。省察の二字は、楚辞九章に出づ。朱子之を取りて、以て情意初めて動く時、理欲を弁別するの工夫と為す。此より前、経伝の中、既に此の意有りと雖も、尚ほ未だ此の名有らず。後世此の名有る者は、蓋し程朱より始まる。是れも亦聖学に功有り。学者其の名を立つる所以の意と、其の功を用ふる所以の道とを知らざるべからず。中庸の所謂戒慎恐懼なる者は、朱子以て存養の工夫と為し、慎独なる者は、朱子以て省察の工夫と為す。都て是れ道なる者は須臾も離るべからざるの事なり。

現代語訳

存養と省察の工夫は、心の学問の大切な務めです。存養の二字は、程明道・程伊川の兄弟が『孟子』の「心を存し性を養う」という言葉から取り、学ぶ者が普段の動いている時も静かな時も、心と本性を守る工夫としたものです。省察の二字は『楚辞』九章に出ています。朱子がこれを取り、感情や意念が初めて動く時に、天理と人欲を見分ける工夫としました。これより前にも、経書や注釈の中にこの意味はありましたが、まだこの名はありませんでした。後世この名があるのは、程子と朱子から始まったのでしょう。これもまた聖人の学問に功績があります。学ぶ者は、その名を立てた意味と、その努力の用い方を知らなければなりません。『中庸』のいう戒慎恐懼を、朱子は存養の工夫とし、慎独を省察の工夫としました。どれも「道は片時も離れてはならない」ということです。

解説

朱子学の修養の二本柱、存養と省察の語源と意味を整理した条です。存養は『孟子』尽心上篇の「其の心を存し、其の性を養ふ」から来ています。『中庸』首章は、見えない所でも戒め慎み、恐れ懼れること、そして独りの時を慎むことを説き、朱子はこれを存養と省察に当てました。益軒は、言葉の由来を知ることで工夫の意味がはっきりすると考えています。普段から心を整えておくことと、心が動いた瞬間に点検することを分けて考えると、自分の感情との付き合い方が具体的になります。

この章句が説くこと

存養省察慎独中庸

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