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慎思録 / 巻之一

天下之人。天爲父。地爲母。而爲天地之子。是以萬物之中。唯人爲最貴。是所以爲靈也。夫然。故人之於天地。有罔極之恩。豈唯禀氣之初。資其始生之功而已乎。抑有生之後。覆載愛育之恩。亦係乎此矣。是故儒者終身之事業。啻在事天地而盡其道而已矣。西銘所謂存吾順事。沒吾寧之意。學者之所當知也。事天地之道如何。曰。爲仁而已矣。爲仁之道。在存心養性。而愛育人物而已。葢吾心性乃天地之所賦與。即仁也。存養之而不梏亡者。事天地之本也。且夫天下之人物。是天地之所生也。天地愛育於其所生。是故君子事天地之道。在親親仁民而愛物而巳。聖人所以敎民以惇五典也。且其餘事。又在愛物而巳。是惇人倫愛萬物者。所以奉若于天地生育之心也。然則豈可敢慢惡於人。暴殄於物。而乖戾于天地生育之心乎。是以愛養於人物者。乃存心養性之功用。而爲仁之事也。是事天地之道也。

新字:天下之人。天為父。地為母。而為天地之子。是以万物之中。唯人為最貴。是所以為霊也。夫然。故人之於天地。有罔極之恩。豈唯禀気之初。資其始生之功而已乎。抑有生之後。覆載愛育之恩。亦係乎此矣。是故儒者終身之事業。啻在事天地而尽其道而已矣。西銘所謂存吾順事。没吾寧之意。学者之所当知也。事天地之道如何。曰。為仁而已矣。為仁之道。在存心養性。而愛育人物而已。葢吾心性乃天地之所賦与。即仁也。存養之而不梏亡者。事天地之本也。且夫天下之人物。是天地之所生也。天地愛育於其所生。是故君子事天地之道。在親親仁民而愛物而巳。聖人所以教民以惇五典也。且其余事。又在愛物而巳。是惇人倫愛万物者。所以奉若于天地生育之心也。然則豈可敢慢悪於人。暴殄於物。而乖戻于天地生育之心乎。是以愛養於人物者。乃存心養性之功用。而為仁之事也。是事天地之道也。

書き下し

天下の人は、天を父と為し、地を母と為して、天地の子為り。是を以て万物の中、唯人を最も貴しと為す。是れ霊為る所以なり。夫れ然り。故に人の天地に於けるや、罔極の恩有り。豈に唯気を稟くるの初め、其の始生の功に資るのみならんや。抑も有生の後、覆載愛育の恩も、亦此に係る。是の故に儒者終身の事業は、啻だ天地に事へて其の道を尽くすに在るのみ。西銘に所謂存しては吾順ひ事へ、没しては吾寧んずの意、学者の当に知るべき所なり。天地に事ふるの道は如何。曰く、仁を為すのみ。仁を為すの道は、心を存し性を養ひて、人物を愛育するに在るのみ。蓋し吾が心性は乃ち天地の賦与する所にして、即ち仁なり。之を存養して梏亡せざる者は、天地に事ふるの本なり。且つ夫れ天下の人物は、是れ天地の生ずる所なり。天地は其の生ずる所を愛育す。是の故に君子の天地に事ふるの道は、親を親しみ民を仁して物を愛するに在るのみ。聖人の民に教ふるに五典を惇くするを以てする所以なり。且つ其の余事は、又物を愛するに在るのみ。是れ人倫を惇くし万物を愛する者は、天地生育の心に奉若する所以なり。然らば則ち豈に敢へて人を慢悪し、物を暴殄して、天地生育の心に乖戻すべけんや。是を以て人物を愛養する者は、乃ち存心養性の功用にして、仁を為すの事なり。是れ天地に事ふるの道なり。

現代語訳

天下の人は、天を父とし地を母として、天地の子です。だから万物の中で人が最も尊く、それが霊妙である理由です。そうであるから、人は天地に対して限りない恩があります。気を受けて生まれた初めに、その生み出す働きに頼っただけではありません。生まれてからのち、覆い載せて愛し育てる恩もまた、天地によるのです。だから儒者の一生の仕事は、ただ天地に仕えてその道を尽くすことにあります。『西銘』のいう「生きている間は順って仕え、死ねば安らかである」という意味は、学ぶ者が知っておくべきことです。天地に仕える道とは何か。仁を行うことです。仁を行う道は、心を保ち本性を養い、人と物を愛し育てることにあります。自分の心と本性は天地が与えたもので、それが仁です。これを保ち養って損なわないことが、天地に仕える根本です。また天下の人と物は、天地が生んだものです。天地は自ら生んだものを愛し育てます。だから君子が天地に仕える道は、親を親しみ、民に仁を施し、物を愛することにあります。聖人が民に五つの人倫を厚くすることを教えたのはこのためです。さらにその余りの事は、物を愛することにあります。人倫を厚くし万物を愛することは、天地が生み育てる心に従うことです。それならどうして人を侮り憎み、物をむやみに損なって、天地が生み育てる心に背いてよいでしょうか。だから人と物を愛し養うことは、心を保ち本性を養う働きであり、仁を行うことであり、天地に仕える道なのです。

解説

益軒の思想の柱である「天地に事ふる」を正面から説いた条です。張載の『西銘』は天地を父母とし、万物を同胞とする朱子学の名文で、「存しては吾順ひ事へ、没しては吾寧んず」はその結びの句です。「親を親しみ民を仁し物を愛す」は『孟子』尽心上篇の言葉で、仁が家族から民へ、さらに万物へと広がる順序を示します。益軒は『大和俗訓』などでも天地の恩を説きました。人だけでなく物を粗末にしないことまで仁に含める視点は、今の暮らし方を見直すうえでも示唆に富みます。

この章句が説くこと

天地西銘愛物存心

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