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新論 / 守禦

増兵衆、則冒進以開、訓練兵旅者、不過用以爲文具、富邦國者、適足以生驕心、班守備、則隨成尾大之患、設屯戍則兵卒横暴、蠧民傷俗、立墩臺謹驛逓、則徭役繁多、以擾百姓、製巨艦運諸物、則姦闌難詰、鑄大銃製干鹵敎弓弩、則空疎衒技之徒進、生材備物、則欺罔釣利者聚、保嗇金石、則民或失其業、權輕重平物價、則貿易生姦詐、夫若此、則事無一可爲者矣、語曰、君子喩於義、小人喩於利、苟使義利不辨、小人而乘君子之器、則天下之利、未見其不變爲害也、

新字:増兵衆、則冒進以開、訓練兵旅者、不過用以為文具、富邦国者、適足以生驕心、班守備、則随成尾大之患、設屯戍則兵卒横暴、蠹民傷俗、立墩台謹駅逓、則徭役繁多、以擾百姓、製巨艦運諸物、則姦闌難詰、鋳大銃製干鹵教弓弩、則空疎衒技之徒進、生材備物、則欺罔釣利者聚、保嗇金石、則民或失其業、権軽重平物価、則貿易生姦詐、夫若此、則事無一可為者矣、語曰、君子喩於義、小人喩於利、苟使義利不弁、小人而乗君子之器、則天下之利、未見其不変為害也、

書き下し

兵衆を増せば、則ち冒進以て開け、兵旅を訓練する者は、用ゐて以て文具と為すに過ぎず、邦国を富ます者は、適に以て驕心を生ずるに足る。守備を班てば、則ち随ひて尾大の患を成し、屯戍を設くれば則ち兵卒横暴にして、民を蠧み俗を傷る。墩台を立て駅逓を謹めば、則ち徭役繁多にして、以て百姓を擾す。巨艦を製し諸物を運べば、則ち姦闌詰め難し。大銃を鋳、干鹵を製し、弓弩を教ふれば、則ち空疎衒技の徒進み、材を生じ物を備ふれば、則ち欺罔釣利の者聚まる。金石を保嗇すれば、則ち民或いは其の業を失ひ、軽重を権り物価を平らかにすれば、則ち貿易姦詐を生ず。夫れ此くの若くんば、則ち事一の為すべき者無し。語に曰く、君子は義に喩り、小人は利に喩ると。苟も義利をして弁ぜざらしめ、小人にして君子の器に乗らば、則ち天下の利、未だ其の変じて害と為らざるを見ざるなり。

現代語訳

兵の数を増やせば、無謀に出世をねらう道が開け、兵の訓練は形だけの飾りにすぎなくなり、国を富ませれば、かえって驕りの心を生むだけになる。守備を分担させれば、それにつれて末端が強くなりすぎる弊害が生じ、駐屯兵を置けば兵士が横暴になって民を食い物にし風俗を損なう。見張り台を立て宿駅の伝達を整えれば、夫役が増えて百姓を苦しめる。巨艦を造って物資を運べば、不正な密輸が取り締まりにくくなる。大砲を鋳造し、盾を作り、弓や弩を教えれば、中身のない技自慢の連中がのさばり、資材を生み出し物を備えれば、人を欺いて利をあさる者が集まる。金属や石を節約すれば、民の中には生業を失う者が出、物の値の軽重を操って物価を安定させれば、取引に不正が生じる。このようであれば、なすべき事は一つもないことになる。『論語』に「君子は義に敏く、小人は利に敏い」とある。もし義と利の区別をつけさせず、小人が君子の地位に就くなら、天下の利益はすべて害に変わってしまうだろう。

解説

害の列挙は、増兵・訓練・富国・守備の分担・屯戍・見張り台と駅逓・巨艦・武器製造・資材調達・金石の節約・物価調整と、守禦篇で説いたほぼすべての策に及ぶ。正志斎は自らの提案を一つずつ取り上げ、担い手次第で害になり得ると認めたうえで、『論語』里仁篇の「君子は義に喩り、小人は利に喩る」を引き、小人が君子の地位に就けば天下の利はすべて害に変わると結論する。制度の良し悪しより、それを運用する人の質が成否を決めるという考え方であり、現代の組織でもポストに誰を就けるかの重さを思い起こさせる。

この章句が説くこと

義利人材君子制度弊害論語

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